成長の物語を内包したロックンロール
桑原雅彦

 ロックンロールは成長を拒否する音楽である。「大人になる前にくたばっちまいたい」とシャウトしたTHE・WHOの「マイ・ジェネレーション」と「つまらない大人になりたくない」が最後のフレーズの「ガラスのジェネレーション」は、それを象徴する曲ではないだろうか。この夏、「マイ・ジェネ レーション」を書いたTHE・WHOのピート・タウンジェントはデビューしてから39年目にようやく初来日。そして、佐野元春は4年半ぶりのアルバム「THE SUN」をリリースした。

 横浜国立競技場と大阪ドームで開催されたロックフェスティバルに出演したピート・タウンジェントは、ステージで三十数年前のウッドストックの時と同じようにブンブン腕を振り回してギターを弾き、最後には赤いストラトキャスターを破壊した。頭は禿げ上がってしまったが、衰えをちっとも感じさせないステージアクション。ピート・タウンジェントの姿は成長を拒否するロックンローラーのままで、来日を待ちわびていた多くのオーディエンスを大興奮させた。

 ピート・タウンジェントとは対照的に佐野元春は新しいアルバム「THE SUN」で成長の物語を唄った。「ハートビート」や「ロックンロール・ナイト」の主人公たちのその後の姿が曲の中に描かれていたのだ。二十数年後の街のカサノバやナイチンゲールたちが現代の日本で繰り広げる様々なシーンの断片。成長の物語を内包した十四曲。破壊するのではない、成長することも拒否しない。あるがままの現在の自分を受け入れ、そこから始めてみようと唄いかける佐野元春。こんな音楽はこれまでなかった。

 成長や成熟を表現しているが「THE SUN」は正真正銘のロックンロール・アルバムだ。それは最後の曲「太陽」が象徴している。「ここにいる力をもっと」がロック。「風に舞う力をもっと」がロール。そして、「夢を見る力をもっと」はロックンロールが追い続けてきたテーマそのものである。

 ロックロールにとって難題である成長を曲の中に織り込むことによって、佐野元春は彼が敬愛するピート・タウンジェントでさえ成し得なかった表現の域に到達した。
 
 Beat Goes On。街のカサノバやナイチンゲールたちの物語は、これからも続いていくだろう。