"THE SUN" is shining !
海老沼大輔

  優れた芸術作品には必ず存在する、受け手の"何か"を誘発する核。どうしても、ここ日本では、作り手と送り手の間に様々な障害があって、ダイレクトに作り手の表現の"核"が伝わり辛くなっている昨今。

 佐野元春は、もう、ロックだとかPOPだとかそういう枠組みを全部とっぱらった場所、にこの作品とともに、到達した感がある。かつてのユーミンや山 下達郎、とも、サザンオールスターズの存在の仕方ともまた、異なる、意識的に音楽にBGMを超えた何かを求めてアクセスするひとたちの心に、彼の作品は、深く届く。

 本作は、4年半振りのオリジナルスタジオアルバムだが、誤解を恐れずに言えば、これは2000年から、2004年までのベストアルバムだと言ってもいいかもしれない。かつてバックバンドのハートランドを解散した後、2年半かけて創られた"フルーツ(96年)"が自分の中から出てくる音楽性をバンドという枠組みから一旦解放して、暗中模索したソロ/オムニバスアルバム的な性格を有していたのに対して、今回は、その作業の続きをホーボーキングバンドと、徹底的に煮詰めた14曲が残されている。

 近年、ライブ活動の場面に於いては、ヴォ−カルスタイルの試行錯誤の期間が長く続き、新しいアルバムを持たずに、数度行なわれたツアーライブの中でも、昔の曲の新アレンジは相変わらず光るものがあったが、"新曲"という形では、なかなか、これというものを提示できずにいた。

 普通、曲と歌詞が徹底的に創り込まれていないと、ライブでアレンジをしても、曲がサウンドの変化を受け止め切れずに、空中分解してしまうことが多々あるが、佐野元春は、本当に、ライブツアーの度に、まっさらの新曲を創るように、昔の曲を最新型に変えて、幾晩もの夜を重ねてきた。ある時は冗談半分で"全部新しい歌詞をのせればいいのに"と思ったぐらい、惜し気も無くやってのけるのだ。

 ひょっとしたら、ライブはこのアルバムの曲だけで、昔の曲をやらなくてもいいぐらいのポテンシャルが確実に、ある。まっさらな状態で、この音を聞いて、佐野元春を知る人も数多く出てくると思う。この秋から始まるツアーでは、相当なものが込められたこのアルバムからの楽曲がどんな輝きと驚きを持って迎えられるか、今から高まりを抑えられないでいる。