特集 = VISITORS再訪

F●cking amazing!

城山隆(書籍編集者/物書き)

 音に映像に、そしてパッケージのアートワークに至るまで示唆に富んだ『VISITORS 20th Anniversary Edition』に続く、30年目の“再訪”たる『VISITORS DELUXE EDITION』は仕様の隅々まで佐野の気配を感じさせるととともに、アーカイヴ性を大いに高めた完結版だ。とはいえ、単なる“記録”ではなく、最新のテクノロジーを施して受発信双方に“新たな記憶”を創出させたいという制作意図が感じられる。故岩岡吾郎氏に捧げられた写真集『MOTOHARU SANO IN N.Y.C.1983』然り、故坂西伊作氏に捧げられたDVDコンサート映像然り。過去の囚人ではなく、未来の訪問者たらん、と。

 では、筆者にとっての“新たな記憶”はというと、DISC THREEのライヴCDだろうか。ヴィジターズ・ツアーの最終を飾った東京品川プリンス・アリーナ2公演からベスト・テイクが厳選され、67分ほどに再構築されたものだ。吉野金次氏が手掛けたライヴ・レコーディングを坂元達也氏が卓抜したエンジニアリングで、ライヴの密空間をキラキラ耳に輝かせる。日本のロックシーンにおいて金字塔ともいえたヴィジターズ・ツアーのパフォーマンス・テンションの高さを再確認できる一方、同公演の実体験者であろうとなかろうと、このディスクが稀に優れたライヴアルバムであることを客観的に認識できる。まさに“新たな記憶”のひとつだ。

 そして、最新リマスター&高品質CD規格による鮮鋭なオリジナル盤を幾度となく回しながら、改めて思い至る。『VISITORS』は、日本人というより、“東京人”である佐野元春だからこそ創り仰せたのだと。まずもって30年前、ニューヨークに暮らしを求め、日々、足音を刻みながら一から先鋭アルバムを制作しようなどと、地方出身者には発想さえ及ばなかったに違いない(かく言う筆者も地方出身者)。やはり都会に生まれ育ち、かつ精神の野生児、ストイックなエピキュリアンでもあった佐野ゆえ、ニューヨークの獰猛なまでのカオスと同期しながら、言葉とビートをクールに発情させ、それまで東京にも日本にもついぞなかった尖鋭的な音像のあまたをコラージュさせ得たのだろう。

 『VISITORS』は“訪問者”によるニューヨーク・ドキュメントという背骨を有しつつ、その実、佐野元春という“訪問者”の肖像画だといえる。しかも、そのアプローチは20世紀最大の絵画革命ともいわれたキュビズムにも似て、モティーフの調和の解体、つまりは“アーティスト”佐野元春の調和の解体を成したわけである。その証左はアルバム・ジャケットにも見て取れよう。

 調和の解体に成功した名盤の象徴的なフロントジャケットをしっかり顔とした今回の肉厚なパッケージを手に、以前は気づかなかった事々にさりげなく輪郭が与えられ、ふとamazingを覚え、“新たな記憶”となることもあるに違いない。たとえば、筆者にとってのささやかな事例をひとつ。歌詞カードを眺めながら、「NEW AGE」の英訳詞に、

 Sitting on the winter boardwalk
 Waiting for the light of daybreak

 

という絶妙な韻を見、思わず胸の裡で呟いた。amazing!

 そういえばF●cking amazing! という英語がある。今風な日本語に置き換えるなら、超スゲー! ということになるだろうか。

 今回、『ヴィジターズ』30年目の再訪に接した端、未だ荒ぶれる精神の野生児たるmoto“Lyon”に、以下をメールした。

 最低と最高、性なると聖なる、これらの真逆の意味合いを、合体させた現代英語の妙、まさにこのリアルな口語が、《ヴィジターズ》には相応しい。

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