陽気であることをやめるつもりはない
吉原聖洋

 
 じっとしていられない。書いている、という感覚では到底追いつけない。だから踊りながらキーボードを叩いている。とりあえず椅子に座ってはいるものの、両脚でステップを踏みながらキーボードを叩いている。言ってみれば渡辺シュンスケ状態。ステージの上のシュンちゃんほどカッコよくプレイすることはできないけれど、他人からどう見えるかなんて気にしない。陽気であることをやめるつもりはない。

 「迷う」とか「悩む」などという類の習慣はずっと昔に捨て去ってしまったその日暮しの風来坊だが、それでもダウナーな気分で沈み込んでしまうような日もないわけではない。だけど、アッパーな気分を取り戻すのは決して難しいことじゃない。佐野元春の音楽を聴けばいい。彼の音楽はいつもぼくらを陽気にしてくれる。新作『ZOOEY』は特に強力だ。

 佐野元春の音楽の魅力をどんなふうに表現したらいいのか、いつだって瞬間的には考えてみるのだが、数秒後にはキーボードを叩いている。考えている時間があったら、踊りながらキーボードを叩いているほうがいい。ガキの頃から風来坊だったから机の前でじっとしているのは大の苦手。ゴキゲンな音楽を聴いているなら尚更だ。陽気であることをやめる必要はない。ぼくはそれを佐野元春から教えてもらった。

 音楽について真正面から語ろうとするときにいつも行間から滑り落ちてしまうものを掬い上げるスプーンが必要だと思ったこともあった。でも、むしろ掬い上げている間に零れ落ちてしまうもののほうが多い事実に気づいたのは何年前のことだったかな?

 アルバム『ZOOEY』には理屈は要らない。ひたすら聴くことに集中して欲しい。できればラウドなスピーカーで聴いてもらいたいけれど、特に音質にこだわる必要はないだろう。それよりもリプレイして欲しい。ぼくはもう30回は聴いている。でも聴くたびに新たな発見がある。

 彼の音楽を33年前からずっと聴き続けている幸運を音楽の神様に感謝したい。『ZOOEY』から聴き始める新たな幸運も素敵だが、ずっと聴き続けているからこそ味わえる感動はまた格別だ。そして、1950年代に生まれたロックンロールが「還暦」を迎えようとしている今、その歴史を知っている聴き手にとって『ZOOEY』はきっと特別なアルバムになるだろう。

 1980年の『Back To The Street』から2013年の『ZOOEY』まで、すべてはつながっている。そう。物語は続いていく。もう一度だけ言わせて欲しい。陽気であることをやめるつもりはない。