2013年3月13日発売

佐野元春15作目の新作『ZOOEY』言葉のうちに命が宿っている。

コーナータイトル

アルバム『ZOOEY』について text:佐野元春

 かつて僕を慕ってくれた男がいた。若くて才能にあふれたアーティストだった。彼のニックネームは「ゾーイ」。何に由来しているかは知らない。どこかのメディアで僕の作品を批判していたと聞いた。一度手紙をもらった。僕の曲「日曜の朝の憂鬱」をカバーしたいということだった。そのうち彼とは一緒に仕事をするだろうと直感した。しかし彼は若くして亡くなった。それから長い時間がたった。

 ある日偶然、インターネットで彼の日誌を読んだ。亡くなっても故人の日誌が残っているなんて、少し残酷だと思った。そこにはゾーイの言葉で生きることの思いが綴られていた。

 「ZOOEY」とは、ギリシャ語の「ZOE(ゾーエー)=いのち」を語源とする。この「ZOE(ゾーエー)」は生物学的な命ではない。生物学的な命が終わっても、決して消え去ることなく輝き続ける命を指している。

 「ゾーイ」。彼のニックネームがここに由来しているとしたら、僕はもう何も言うことはない。2013年に出す新作にこの名前をつけようと決めた。