NHK FM番組「元春レディオショー」は、81年4月から87年3月まで約6年の間放送されたが、佐野元春がニューヨークで暮らした83年5月から84年3月の約1年間は「元春レディオショー・イン・NY」とタイトルを変え、“ニューヨークの小さなスタジオ”から放送された。
番組は、取材からスクリプト書き、選曲から構成のすべてを佐野自身が手がけた。そうして佐野から毎週送られてくる素材が東京のスタジオに集められ、編集の後、放送されていた。
番組では、ニューヨークで生活する佐野元春が、現地の様子や最新の音楽情報などを交え、まさにライヴ感覚で海の向こうの匂いを運んでくれた。ニューヨーク・アーティストへのインタビュー、街に出てみずから買い求めたオールディーズのオリジナル・レコード音源を紹介したり、老舗のクラブ、「アービン・プラザ」からのライブ中継を試みたりした。新年の訪れにはタイムズスクエアに立って生の雰囲気を伝えたり、と、本人が日本に不在ということを忘れさせるほどさまざまなアイデアが盛り込まれていた。
当時のFMラジオ番組はほとんどが国内制作に限られていた。今でこそ海外のFM局との連携はあたりまえとなったが、佐野自身が海外特派員となり、ほぼリアルタイムにニューヨークの文化状況をリポートするスタイルは、FM番組史上においても画期的なできごととなった。
この間、多くのリスナーたちが、「So Young」のイントロから“I wanna be with you tonight!”の掛け声とともにスタートするワクワクするような“ニューヨークの夜”を佐野元春と過ごしていたに違いない。