昨日よりぼくはもっとロックが好きになった
天辰保文
歌が弾んでいる。弾ませているのは、たぶんこころだ。
子供が純粋で大人が不純だとは必ずしも思わないが、幼い頃、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと、無防備に言えていたのは何故だろうと思う。見栄だとか体裁だとか、こころに重い服を着せるようになったのはいつの頃からだろう。
恥ずかしくて顔が上げられないような戯言を、大切な誰かの耳元でひたすら囁いていた頃の自分も、いまでは考えられないが悪くはなかったではないかと、歌は、問いかけてくれる。
歌が弾んでいる。弾ませているのは、たぶん勇気だ。
大切なものを大切だといい、不条理にはちゃんと異を唱える。その声が如何に遠くからのものであろうと、その叫びが例え微かなものであろうと、決して疎かにしない。耳を傾け、聴きとる、少なくともその努力はしたい。
そこで、じぶんの意志に反する声が聞こえたとしても蔑ろにしない、また、じぶんひとりが他の人と違い、取り残されて不安や孤独に襲われたとしても、それはそれでいいではないか、誰もが同じであるはずがないという事実をしっかりと受け止める。歌は、その勇気を問いかけてくれる。
歌が弾んでいる。弾ませているのは、たぶん力だ。
歌に力が生まれるのは、体のいい沢山の言葉で飾られているからでも、権力や富みに恵まれているからでもない。見栄えなんてどうでもいい、むしろ、完全ならざるもの、立派すぎないところに力は溜まる。そしてそれが、歌を弾ませ、窮屈な社会から飛び立たせるのだ。
歌が弾んでいる。
空を見上げると、重く垂れ下がった雲の切れ間から微かに光が射している。その一筋の光を滑りながら歌たちが降ってくるといいなと思う。そしてもしも明日晴れたなら、その歌たちを連れて海に行こう。朝焼けの波間に黄金色の天使が舞っていれば素敵ではないか。
佐野元春のいちばん新しい歌の数々、気持ちよく弾むその歌たちを聴いて、いままでもそうだったが、昨日よりぼくはもっとロックが好きになった。
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