2004年5月22日。MWSで第一報が伝えられた佐野元春の新レーベル“DaisyMusic”。EPICレーベルを離れた元春の新たなる活動拠点であると共に、日本のロック/ポップミュージックの将来に対してポジティブな影響を与えてくれるレーベルになるだろう。ここでは、2004年6月3日に東京・青山で開催されたプレス向けパーティの模様を記すとともに、佐野元春のオフィシャル・ファン・アソシエーションである「mofa」スタッフによる、この日の元春のホットな体温までも真空パックにしたかのような、生レポートを併せてお伝えします。

Having A Party!
SECRET GIG
ビデオレター01
石坂敬一氏挨拶
ビデオレター02
トークセッション
DaisyMusicの行くべき所

mofa [ 佐野元春 the official fan association ] DaisyMusic発足記念パーティレポートパーティの夜。mofa編集部から送信された電子メールに導かれ、mofaメンバーが青山に集結。レーベル発足の応援メッセージを元春に手渡した。パーティの様子から元春との対話までを記した貴重なレポートである。
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Having A Party!
 パーティ会場に選ばれたのはレストラン CAY[カイ]という、ライブステージを完備した、レストランにしては少し大きめ、ライブハウスにしては少し小さめ、といったスペースだ。19時からのスタートであるが、18時の時点で店内はすでに満員。メディアや業界関係者が招かれていることもあり、テレビ用のカメラクルーなどが所狭しと並んでいた。
 19時に近づくにつれてどんどん込み合い、会場には溢れんばかりの人、人、人。後で確認したところ、約400人もの人が訪れたという。それまでプロジェクタに映し出されていた過去のライブ映像が終わり、今日のナビゲータであるDJ 赤坂泰彦氏による軽い挨拶でパーティはスタートした。




 セットリスト
 ソー・ヤング
 スターダストキッズ
 Back to the street
 Please don't tell me a lie
 ハッピーマン
 アンジェリーナ
SECRET GIG - Motoharu SANO and The Hobo King Band
 続いて、元春とHKBのメンバーがさっそうと登場。各々が自分のポジションにつき、楽器を手にして、軽く音を鳴らす。そして次の瞬間、会場の中にアップテンポなピアノリフが響き渡り、畳み掛けるような生音のドラムとともに、一気にRock & Rollに突入していった。曲は「So Young」だ。元春はタンバリン片手に軽快にシャウトを決めていく。続いて矢継ぎ早に「スターダストキッズ」へ。会場は完全にヒートアップし、ところどころで歓声が聞こえてくる。
 元春はトレードマークともいうべきFender JazzMasterを肩にかけると「友達が新しくレーベルを立ち上げるっていうんで応援に駆けつけました。僕はそんな面倒くさいことはやめとけって言ったんだけどね」と一言。そして会場の笑いをかき消すかのように、ギターリフが鳴り響く。聞き慣れた、けれども懐かしいロックンロールのリフレイン。「Back To The Street」だ! 1stアルバムに収録されたものとまったく同じアレンジで演奏されていく。
 次も続けてタフなロックビートが叩き出される。なんと、ファースト8ビートにリアレンジされた「Please Don't Tell Me A Lie」。まったくテンポを落とすことない演奏を聴いていると、今の元春 & HKBのマインドがどうセットされているか、よく分かる。4曲終わってもバンドがステージを降りる気配はない。元春がギターを肩から下ろし、再びタンバリンを手に持つと、荒々しいディストーションギターが鳴り響き渡り、そのまま「Happy Man」へと突入していく。
Back to the street Jacket  曲が終わり、元春は再度JazzMastrerを肩にかけると「僕はこの曲でデビューしたんだ」と一言。そしてエディ・コクランの筋力を5倍に増強したようなイントロが鳴り響き、「アンジェリーナ」がスタート。バンドの演奏は頂点へと向かい、そのままどこかへ飛んでいってしまいそうだ。HKBがこれほどまでアグレッシブで、縦ノリ直球的な演奏をしたことがあっただろうか?
 この日のバンドは、まるでこれからデビューを狙う新人バンドのようなむき出しのRock & Roll。これならどんなオーディションにも通ること間違いなしだろう。


ビデオレター01:爆笑問題 & 野茂英雄
 興奮のライブパフォーマンスが終わると、クールダウンする意味も含めて、元春に所縁のある著名人からのビデオレターが紹介された。まずは爆笑問題。時事ネタをボケとツッコミでトークする、いつもの二人のノリがそのまま、レーベル発足のおめでとうメッセージとして展開される。さすが司会慣れしているだけあって、レーベル発足のこと、ニューアルバムのこと、秋から始まるツアーといった、これからの元春の活動についてきちんと押さえられていたのは、お見事。
 続いて、アメリカからのビデオレターとして、日本人メジャーリーガーで元春との親交の深い野茂英雄投手。普段から口数の少ない彼であるが、元春へのエールを大人しめの口調で、雄弁に語っていたのが印象的だ。


石坂敬一氏の挨拶 〜 DaisyMusicの発表
 ビデオレターのあと、DaisyMusicからリリースされる作品のディストリビューションを担当する、ユニバーサルレコードの社長兼CEOである石坂敬一氏が壇上に上がった。石坂氏はかつての東芝EMI時代にビートルズのディレクターを勤めていた人物で、ビートルズに関する出版物やエッセイなど多数執筆するなど、日本にビートルズを定着させた立役者としても有名だ。挨拶の中で石坂氏は「Rockというのは音楽の一ジャンルだが、Rock & Rollというのはスタイルであり、生き方だ。そして佐野元春はRock & Rollを体現してきた人。そんな佐野元春にふさわしいビジネスを展開していく」と語った。
 赤坂氏によるナレーションはレーベルの話題へと移り、ロック/ポップミュージックの歴史において重要な役割を担ってきたレコードレーベルのロゴがいくつも映し出される。


 DaisyMusicのスローガンは“Real Music, Real Rock”、そして“夢見る力をもっと”。新作のタイトルナンバーからの一節であるこの言葉は、今、ロックミュージックが持たなければならない肯定性を象徴するものであり、それはそのまま新レーベルの存在意義のようにも感じられた。



ビデオレター02:ジョン・サイモン & 大滝詠一
 イベントでは続けて、新レーベル発足を激励するために届けられたビデオレターの紹介へと移っていく。コメントを寄せてくれたのは、日米を代表する2人の有名プロデューサー。まずは米国からジョン・サイモンの登場だ。
THE BARN Jacket ザ・バンド、ジャニス・ジョプリン、サイモン&ガーファンクルなどの名盤をプロデュースしてきた人物であり、THE BARN('97)で元春 & HKBのプロデュースをしている。最近引っ越したという自然に囲まれた山荘のような自宅から、自らハンディカム片手に撮影した映像だ。「Motoならきっと素晴らしいレコードレーベルを作り出してくれると期待しているよ」という趣旨のコメントにつづき、彼はビートルズの「Here Come The Sun… Lu Lu Lu Lu… It's alright」と口ずさんだ。
 そして二人目は、日本から大滝詠一氏が登場。いったいどういうコメントになるか、会場のみんなは固唾をのんで見守っていた。プロジェクタには薄暗いレコーディングスタジオが映し出されるが、大滝氏の姿はなく、声だけが聞こえてくる。「オレはこういうの苦手なんだからさあ」…画面に出るのを嫌がる大滝氏を撮影スタッフがなんとか説得。ようやくカメラの前に立ったその瞬間、画面が揺れ始めた! …という地震オチでVTRが終了したのであった。




Dr. KyOn : 佐野元春と一緒にやっていける幸せを感じてます。インターネットを使った展開についてもいろいろトライしていきたい。
古田たかし : これからも良い音楽を作っていきましょう!
佐橋 佳幸 : 新しいことが始まる期待でいっぱい。棟梁が作るヒナギクののれんが楽しみです。
井上 富雄 : レーベル設立は佐野さんへの前からの要望であり夢でした。それなので大きくしていくための協力は惜しみません。
山本 拓夫 : 『THE SUN』は僕が最初に参加したアルバム。これからも音を出すことで協力していきたいです。





トークセッション:DiasyMusicとはどんなレーベルか?
 この後、ステージには元春が再び登場。DaisyMusicの概要が説明されるトークセッションとなった。DaisyMusicからの第一弾アルバムは、7月21日にリリースされる元春 & HKBの新作『THE SUN』。この日に決定したという出来立てほやほやのアートワークが映し出される。青空、その下には大きなレンガの壁。そしてその前で大きくのけぞる元春の姿。明るく、そして何か暗示めいたインパクトのあるジャケットだ。さらに、新作発表後の10月から2005年2月まで、全国30公演以上を予定されている「THE SUN TOUR 2004-2005」が発表される。
 DaisyMusicに関しての概要が発表されたところで、会場に集まったプレスから元春 & HKBへの質疑応答の時間となった。その中から主なやり取りを抜粋してここでご紹介する。

DaisyMusicが目指すこと :: クリエイティビティに溢れた新しいアーティストをリスナーに届けていきたい。今、良い言葉をもったシンガーソングライターが登場してきている。彼らをバックアップし、きちんとした形でリスナーと結ぶのがレーベルの役割と考えている。

今後のアーティストの予定 :: まずは『THE SUN』に注力し、次に新しい才能を探していきたい。HKBのメンバーは優れたプレイヤーであると同時に、豊かな経験を持ったプロデューサ集団。彼らの力を借りて、素晴らしいレーベルにしたいと思っています。

EPICを離れた心境 :: EPICにぜひ言いたいこと。それは、“僕を見つけてくれてありがとう。そして僕を解放してくれてありがとう”。

日本の音楽をとりまく状況 :: 状況がGoodとかBadとかではなく、送り手と受け手を100%結びつけるのがレーベルの使命。大メジャーでは構造的な理由でおろそかになることがある。DaisyMusicはメジャーインディペンデントとして、それをやり遂げていく。

ライブに向けて :: この4年間で2回のツアーをやったが、残念ながら新作はなかった。だから次のツアーで新しい曲を演奏できるのがとても楽しみ。みんなが聴きたがっている昔の曲もやるよ。

今日のパーティの気分は? :: 先日、あるテレビ番組で「今の気持ちは?」と質問されたときに、「死ぬまで18歳です」って言っちゃったんだよね。でもよく考えると、それって凄いフィロソフィー。僕はロック音楽が大好きだし、その気持ちは変わらない。だから、今の気持ちはLet's Rock & Rollって感じです。


DaisyMusicが行くべきところは、作り出す未来
 最後に、DaisyMusicのマネージメントを担当する、糟谷銑司 (かすや せん
じ) 氏からのコメントで「DaisyMusicが行くべきところは、我々が作り出す未来です」という印象的なコメントとともに、この日のパーティは幕を閉じた。アルバム『THE SUN』、そして全国ツアー。さらに将来展開されるであろう新しい世代のアーティストとのコラボレーション。欧米では定着してきているメジャーインディペンテントというレーベルのスタイルを、インターネットなどを有効活用して、日本の音楽の世界に定着させる、DaisyMusicのこれからに期待しよう。

 パーティの余韻を少し引きづりながら会場を出ると、澄んだ夜の空に満月が浮かぶ、完璧な月夜であった。






構成・テキスト:今井健史
QT制作・編集: 林ワタル
撮影: 大澤則昭
デザイン: コヤママサシ
mofa [ 佐野元春 the official fan association ]
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