大塚ヒロユキの小説『APE LITTLE FOOL』(新風舎)は読者をトリップさせる。それまでは特に不思議にも思わずに生きていた場所から遠く離れた別の時空間へとぼくらは連れていかれる。読者にとってそれは夢のように甘美な体験かもしれないし、あるいは悪夢のように恐ろしい体験かもしれない。いずれにしても、その体験を経た者はもう二度とそれまでの場所に戻ることはできない。それまでの自分に戻ることはできない。それはまるで「生きながら生まれ変わる」ようなものだ。その体験を経た君はもう昨日までの君ではない。もし君が佐野元春のファンならわかるだろう。佐野元春の音楽を聴く、という体験は、まさに「生きながら生まれ変わる」ようなものだからだ。 |
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