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 佐橋佳幸率いるバックアップ・バンドのメンバー紹介に続いて、鈴木雅之が歌う「ランナウェイ」で今夜のコンサートは幕を開ける。思えばエピックの歴史はシャネルズのこの曲のヒットから始まったようなものだから、レーベルの歴史を辿り直す今夜のイヴェントのオープニング・ナンバーにはふさわしい。その後、桑野信義、鈴木聖美、大沢誉志幸、小比類巻かほる、松岡英明、大江千里、THE MODS、HARRY、バービーボーイズ、TM NETWORK、渡辺美里らがそれぞれのパフォーマンスを披露し、大いに会場を湧かせた。

 4時間にも及ぶコンサートの間、ホール全体が80年代にタイムスリップしたような感覚を何度か味わった。ただ、不思議なことにノスタルジックな気分になることはなかった。タイムスリップの眩暈の中での80年代はまさに“いま”であり、決して郷愁の対象ではなかった。それはきっとアーティストたちの音楽の力がまったく衰えていないからだろう。

 佐橋佳幸率いるバンドの演奏も素晴らしかった。元春ファンにもおなじみのKYONや山本拓夫を含む彼らの演奏は、80年代を彩った名曲の数々を最高のアレンジで再現しただけではなく、“EPIC 25”をより音楽的で創造的なイヴェントにするために大きく貢献してくれた。ビデオクリップなどを編集した映像をパフォーマンスの合間に挿入する演出も絶妙で、今夜のコンサートをより特別なものにしていた。

 今夜のトリはもちろん我らが佐野元春。元春のオープニング・ナンバー「約束の橋」は今夜のイヴェントにふさわしい選曲だった。いたずらに過去を振り返るのではなく、未来へと繋がる大切な道程としての過去を力強く肯定する態度。それはいまの僕らが切実に必要としているものだ。

 2曲目の「SO YOUNG」が80年代ならではのあのワクワクするようなビートを叩き出し、続く「アンジェリーナ」はそのビートがいまでも続いていることを教えてくれる。過去があり、現在があり、そして未来がある。楽観することはできないけれど、だからといって悲観することもない。常に明日を見据えながら今日を走り続ける元春と共に、僕らも前を向いて走り続ける。

 3曲を披露した元春が今夜の出演者たちをステージに呼び戻し、アーティストたちを代表してレーベル創始者の丸山茂雄氏を紹介した後、オールスター・メンバーでの「サムデイ」が奏でられる。2コーラス目では大沢誉志幸がリード・ヴォーカルを披露し、ファンの喝采を浴びる。エピック・レコード創立25周年を記念したコンサートでのオールスター・メンバーによる「サムデイ」にはさすがに感慨深いものがあった。とりわけ「サムデイ」を歌う元春の隣りで小室哲哉がギターを弾いている、というシーンは“EPIC 25”でなければ観られないものだろう。

 イヴェントに参加することのできた大多数のファンは深い充足感を抱きながら家路に着いたのではないだろうか。4時間にも及ぶ“EPIC 25”は、80年代をオンタイムで経験した世代のオーディエンスにとっては贅沢すぎるくらいにゴージャスなイヴェントだった。しかもそれは表層のみを華美に飾り立てた単なる“祭り”ではなく、我が国のポップ・ミュージック・シーンにおけるエピック・レコードの貢献の大きさを改めて思い知らせてくれるコンサートだった。

 改めて振り返ってみるまでもなく、80年代はまさにエピックのディケイドだった。元春をはじめとする優れたアーティストたちとタッグを組んだエピックは、既成の枠組みを打ち破る大胆な創造的冒険の数々で、当時のポップ/ロック・シーンを力強く先導した。時代は変わっても、その精神は変わらない。今後のエピックにもより一層の飛躍を期待したい。

(吉原聖洋)



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