若い感性とキャリアからくる音楽的快楽
廣野佑典(タワーレコード渋谷店 )
夢想でも説教でもない詞が胸を打つ。言葉や音の細部まで練り込まれた傑作。
1枚を通して自分や世界と向き合える作品がこの世にどれほどあるだろう?
時代の一歩先を行く音楽性を追求しながら大衆の支持を勝ち得た稀代のアーティスト佐野元春の作今のディスコグラフィーは、彼と同世代のアーティストからは感じ得ない驚きとみずみずしさに満ちている。この新作も最高だ。
若い都市生活者の憂いが描かれた本作の詞は10代が書いたようなまっすぐな言葉で紡がれるが、それは夢想でも説教でもない、佐野元春の誠実な姿勢から導き出された真実なのだと思う。
本作を聴いて感じる音楽的な快楽。それはキャリアが支える安定した丸みと、若い感性による鋭さの絶妙なバランスによって与えられる。ニック・ケイヴ & ザ・バッドシーズ、レナード・コーエンのように。
日本には他にこれほどのアーティストは居ない、と言い切れるほど本作は名盤だ。
若い世代にこそ最も聞かれるべきアーティストである、そう断言する。
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