楽園はまだ失われない
Mitsuhiko "Rusty" Kawase

 それは12の章からなる1編の詩のようだ。反復される言葉、そして旋律。旋律の内に、言葉は在る。

 その言葉は彼のものではない。それは誰のものでもない。それはただそこに在る。ただそこに在る言葉を、彼の窓辺で、彼は紡ぎ出す。

 それは物ではない。事象でもない。それはスピリチュアルな何かだ。街に溢れる音楽とのあいだにある、途方もない隔たりについて思わないわけにはいかない。

 それは鳥のように自由だ。自由で、そして開放されている。だからこそ、自分の都合と利益を唯一の立脚点とする暴力的な国家についての物語は、同時に、街に暮らしている彼女の日常に優しく寄り添う物語でもあり得る。

 あるがままをそのとおり書くな、あらゆる美しさや痛みを書け。しゃがれた詩人のかつての言葉を、彼は忘れてはいない。

 月が満ち欠けていく。彼女は感じている。月の満ち欠けを感じている自分とは、いったい何なのか。湖に浮かび、息を吸って、彼女は月を眺めている。

 真夜中の摩天楼を縫うかのように、彼女は進んでいく。そしてあのセンシュアルな急降下。一瞬の滑空ののち、再び加速しつつ、彼女は上昇していく。

 夜明け前。メタル・ジャケットにくるまれた鉛の銃弾が、至近距離から、彼女のこめかみをつらぬく。光の彼方に、吹き飛ばされ、まき散らかされる。街はまだ眠っている。

 "Bluebird, bluebird."

 彼女の体を通過した銃弾が、街路に跳ね返り、石畳をえぐり取る。

 "I've got a bluebird that sings."

 朝靄のなか、眩い光と野蛮な闇とが、互いに滲みこみ、溶けあう。すこしずつ夜が明けていく。