『MANIJU』評のためのパスティーシュ
原田高裕

花や何 ひとそれぞれの
涙のしずくに洗われて 咲きいずるなり
—— 石牟礼道子 二〇一一年四月


 美しい花を飾ろう。新しい月に踊ろう。きれいな夢を重ねよう。新しい時を奏でよう。われら、華やかなりし国ニッポンのディズニー・ピープル。頭が藁で詰まった、うつろなる人々。踊り方さえ忘れた、剥製の木偶の坊。

 街の向こうでは/いかれた人たちがこぼれてゆく。イカレタ詩人が丘の向こうに落ちてゆく。ふと空を眺めると、ゴルコンダの如き堕天使の群れ。ヤバンナイマ!ヤバンナイマ! ラジオをつける、クソみたいな曲、たまにグッドミュージック、そして人身事故の交通情報。線路に落ちる、轢いた、それに慣れた。死にたくはない。でも、生きることをやめたい。明日もこの繰り返し。慣れてしまった。

 あなたはあなたに語りかけている。わたしが身を焦がしている恋は、いつかは醒める気休めの恋。わたしが想い描いている夢は、無知蒙昧な戯れの夢。現実は厳然としてある。現実は隘路に聳え立ちはだかる不動の存在、なのか。詩人Aは言った。わたしたちは「びくともしない現実」の中で生きている、変わっていく現実が目に見えない者として。さわってみよう、抵抗を感じませんか? 抵抗を感ずるとしたら、「びくともしない現実」は動く壁である証拠。蒼い鳥が、あなたを見ている。

 いつもそばにいるよ/いつもそばにいるよ/君だけを愛しているんだぜ/君だけに伝えているんだぜ。ずっとずっと/その手を離さないでいてくれ。一九一一年、エゴン・シーレの水彩画。色めきを帯び、揺蕩う愚かさ。その愚かさこそ、無敵。チェス遊び、雫、滴り、鬱勃。彼女が繚乱の芳気を身にまとうため、おまえは死者の眠る芝生に臥し、アリョーシャのように地に接吻せよ。彼女が踏み石とされ声なき声で啼泣する時、おまえはオスカルのようにわめきちらし、世の中すべてのガラスを粉砕せよ。「ガラスのかけらは幸運をもたらすわ!」

 償いの季節。連絡取りあおうよ/そしてなんとか無事でいよう。哲学者Kは言った。ともに暮らす人間たちのうちで永遠平和は自然状態ではない。自然状態とはむしろ戦争状態。燦たる大戦果、尊い犠牲、一億の総奮起、アジヤ ワ ヒトツ。アイトセンソウ!アイトセンソウ!


時の立札からの声。

命おのれのものならず
一匕をのみて
われにつゞけと
碧海の底に
訓へたまへり
命おのれのものならず

爆彈は炸裂した瞬間しか爆彈ではない。
あとは、唯の火事ではないか。


勝とうが敗れようが、双方が責め苦を延々と負い続ける。未来は償いに呪縛され、いまだ雨は降らず、ただ雷の遠鳴のみ。

 空に立って/過去を蹴って/光の中に逃げていくよ 君と。光の小旅行 続いてゆく/いったい あの人は何者なんだろう。いったい 自分は何者なんだろう。批評家Sは言った。間違っていると知っていても、間違っていることをやってのける、人間のその能力に驚く。作家Sも言う。人々は物事を分かっているくせに、いつも間違った選択をしてしまう。

 人類最期の日々、天の声の台詞。蒼空の蒼を偽ってたくし下げ/国旗の色で国土の色を塗り直し/鉄を喰らって喰らい過ぎ/勝閧の大口で嘔吐し/隣人の苦悩に鼻をせり出し/隣家の炎上でスープを炒め/他人の飢餓に肥えふとり/なお食い飽きず/他人の頭を燃えさかる炭火で焼いて/身体をほてらせ/舌なめずりして意気揚々と

 なおも続く、天の声。宇宙は永遠に調和を乱されないがため/天空に手出しをするな/思想家も刺客も手を戻せ/一筋の砲火も一件の取引も許さぬ/われらの黙した恍惚を乱さずにあれ! 隕石、降りしきる。熾火、立つ。大轟音、轟く。衰滅する。静寂。深い沈黙。そして、神の声の台詞。「余の望むところではなかった」。眩い光。「もうここともお別れだ」

 十一月のエアポート。七月のウェディング・デイ。五月のSanta Cruz。四月はいちばん無情な月。できることだけをやってみた/ほかに言葉は何もない/今はただ虚しいだけ。いまここにある詩は、先人から手渡された言葉でできている。詩人を撃つな、詩を討つな、いにしえより宿る言魂を屠るなかれ。春風萌すといえども われら人類の劫塵/いまや累なりて 三界いわん方なく昏し。今日もテムズ娘たちの哀歌がきこえてくる。あたしは駄目になりました。あたしはなんにもいわなかった。あたしがなにを怨みましょう? みなさま なんにも御期待なさらない こころのまずしいみなさま。情慾の劫火、劫掠の果、われらの地は荒ぶ。

燃える


 あったまっちゃったストロベリームース、キャラメルソース、温まったチョコレートムース、おとといのココナッツミルク。ねばつくもの、le poisseux というエナラージュ。それは、存在の甘美な状態。恋するものは、液化するまえに、愛のなかでねばつく。「僕の魂のなかには大海のようなクリームがあったのだ」。メルトダウン、とろけるような災厄、われらが産み出した火焔と瘴霧の沼。信じていたもののすべて、疑った。この世の果てで寄り添うイカレタ二人、より良い明日を希え。滂沱 滂沱 滂沱 滂沱。熔けゆくスタア。それこそが、おまえがおまえである理。降りしきる涙を雨に変え、世界を見返せ。

シャンティ シャンティ シャンティ


(了)