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■アメリカの現状を見て
MS: 多分いろんなインタビューで聞かれていると思うんだけども、これまでブラウンさんは一貫してリベラルな視点でソングライティングしていると思います。非常に答えにくいかも知れないんだけども、イラク戦争を始めとした米国の今の現状をどう思っていますか。
JB: いいや、聞いてくれてよかったよ。最近そのことについての質問が多かったんだ。僕たちは1月からずーっとツアーに出ていて、特にヨーロッパで、そしてオーストラリアでも、そのことについてたくさんの質問を受けた。イラク戦争のことは皆の頭の中にあることだし、アメリカ人が今何を考えて、思っているのか知りたいところだと思うよ。
もちろんアメリカでもある程度の反戦の声や、懐疑的な態度はみられる。多くは、石油のコントロールのためだと思っているよね。石油、それからイスラエルを後ろで支えるためとか、サウジアラビアからベースを移しても大丈夫な様に準備してるとかね。いろんな分析があるけれども、ほとんどの人はアメリカ政府が言っているように人権を守るための戦争なんて思っちゃいないさ。
ブッシュは「これはイラクの人々を解放するための戦争だ!」なんて言っているけど、そんなこと信じている奴はいないし、みんな疑ってかかっていると思う。でも現在僕たちは面白い状況にいて、政府が人々の声を聞き入れるんじゃなくて、同意を創り上げているんだよな。ほら、去年の9月か10月の世論調査でもアメリカ人は圧倒的に戦争に反対していたのに、いざ実際に戦争が始まったらそれも変わるのさ。だって、若者が戦争に行って戦って死んでいるのに、国を支持しないわけにはいかなくなるだろう。僕に言わせれば、二枚舌的だけどね。世論調査をする側が政府と結びついていれば、違った意見が前に出てくるわけだし。
今、僕達は歴史的に面白い位置にいるんじゃないかな。僕は戦争は絶対反対だよ。アメリカがテロリズムから本当に守ってくれるのかも大きな疑問だし。もしかするともっと危険な、かえってテロの攻撃にあいやすい世の中にしてしまっているのかもしれないし。アメリカは9・11のあとに世界をひとつに出来るようなとってもユニークな機会に恵まれたんだ。世界中で起こっている本当の問題、貧困、病気、異宗教の問題などについて語れたはずだ。
君も知ってるように、大統領はいい政治家ではない。メディアのある一部の力や、軍事力のある人々が言うことに、国民は従っているだけなんだ。これは民主主義の健全の形じゃないけれども、アメリカは本当の民主主義国家とは言えない。今の大統領も国民の大多数によって選ばれたわけじゃないし、深刻な状況だよね。パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)を造りたいとまで言っているんだから。今、アメリカ政府は民主主義国家のはずなのに、パックス・アメリカーナという言葉まで使って、それを真似たいと思っているんだ。百年にわたる軍事的・経済的な世界征服をね。
最後に誰かがそんな思い付きをしたのは、第二次世界大戦のときじゃないかな。最後にあった戦争ってことじゃないよ。でもアメリカ人は皆、第三帝国と枢軸国の世界征服を止めるために戦った戦争なんだって、信じて育ってきてるんだ。日本人の皆が、例の「悪の枢軸国」発言に関してどう思ってるか分かんないけれど、第二次大戦時の枢軸国、ドイツ・イタリア・日本の三国同盟を引き合いに出して、今の状況を位置づけようとしても無理なんだよね。イラクと北朝鮮は同盟がないし、イランとイラクは交流があるというだけだし。でもアメリカは、第二次大戦当時と同じ考え方を将来的にも宣伝として使っていきたいんだよ。僕はそれは間違っているし、無謀で危険なことだと思う。例えば「次は北朝鮮だ!次はお前達の番だぞー!」って言っているじゃないか。そうすると、北朝鮮は軍事力を強めていくだろうし、危険な状況を招く。外交も無視して一体どうしてしまうんだろう。その次は、どこの国から身を守らなければならないのか。
イラクの大量破壊兵器に関して、オーストラリアではこんなジョークがあるんだ。ハワードがブッシュに「なんでイラクに大量破壊兵器があるとわかるんですか?」と尋ねる、するとブッシュが「領収書を持っているからさ」と答える。我々が売ったから、やつらが持っていると知っているのさ。イラクがアメリカから兵器を買ったということが、爆撃の口実だって言うことをほとんど認めているんだよ。
北朝鮮に対してイラクを攻撃したようにいかないのは、彼らが本当に破壊兵器を持っているからなんだ。これは逆に言うと、イラクは本当は大量破壊兵器を持っていなかったということになる。武装解除が口実だったのに、イラクがもし本当に兵器を放棄して、生物兵器も化学兵器も無かったとしたら、アメリカがやったことって何だったんだろうと、思ってしまう。それでいて、本当に兵器を持っている北朝鮮のような国に対しては、外交の力を使うんだ。
だから僕の意見としては、これは恥ずべきことなんだ。不名誉とか不正とか、そういったことを抜きにしても、どうしてイラクを爆撃したかって言うと、単に出来るからなんだ。もしアメリカがイラクを攻撃したように北朝鮮を攻撃したら、今度は北朝鮮が日本も韓国も攻撃することになるだろう。石器時代に逆戻りさ。百年の外交の破綻だ。確かに国連はもうそんなに力が無いかもしれないけれども、だからといって、百年にも及ぶ外交の歴史を捨てることは危険だ。
MS: かつてベトナム戦争に反対した世代、今彼らはどこに行ったのか?
JB: 彼らはまだ存在しているよ。戦争に反対している人たちがそうだし、ベトナム戦争に反対した人達はまだ存在するんだけども、それほど支持が得られていない。メディアに取り上げられないんだよね。それがひとつ。メディア企業のオーナーたちによるメディア統制があって、彼らは政府と共犯関係にある。彼らはまったくの政府寄りなんだ。自分たちの事業に上手くいくような側につく。
フランスの国民、イギリスの国民、そしてアメリカでも戦争に反対する人たちはいた。アメリカでも反戦デモはあったでしょ。戦争が始まると参加する人達も減ったけど。少数派であると見られるのが怖かったのかもしれないね。でも、確かに戦争に批判的な人達は存在する。ただ、街に出るのをためらっているんだ。忠誠心がないと見られるのを畏れたのかもしれない。あるいは身を危険にさらして戦場にいる若い兵士たちに非協力的だと見られるのを。または、まったく落ち込んでいたか。だって、色々な方法で反対の姿勢を表現しても、政府はとにかく突き進むのだから。それはイギリスでもオーストラリアでも同じだよ。もしかするとスペインでもね。政府は多少後ろに下がって参戦を控えていたけど。わからないね。でも、こういったすべてのところで、国民と行政機構の間に分断がある。そして、行政機構とメディアとの癒着。特にアメリカではそれがひどい。
僕が良いと思ったのは、国連主導で行われた論議やディベートのレベルね。それぞれの国が一堂に集まって、こう言う。あなたの国が国連に協力してやるというのなら、国連が決定すればうちの国も一緒にやりましょう。でも、私たちがしないのなら云々と…。このような協議が何カ月も続いた。これはいいことだった。ここで我々が目を向けなければならないのが、ワンワールド、ひとつの統治体、いや、統治ではなくひとつの諮問(しもん)機関がこれらを決定したということでしょ。
でも、アメリカはいつも法の外にいて、例えばニカラグアで鉱石を採掘するときも中央政府を認めなかった。世界裁判所にも出向かないで無視した。そして、国連を必要とするのは自分たちの要求を叶えてくれる時だけ。スポーツをしている人なら、サッカーや野球をしている人なら誰でも、アウトの時はアウトと知っている。命令も全世界の秩序に反していれば、それに従うことはできないんだ。国連を支持するのは、自分の言うことを聞いてくれる時だけ。残念だけどそれがアメリカなんだ。世界の人からすれば馬鹿げてみえるかもしれないけど。
ブッシュが大統領として選ばれたのではないことは周知の事実さ。彼は国民に向かって「私の仕事はお役に立っていますか」と聞くのではなく、右派の一部の人々に向かって「お役に立っていますか」と聞くと、「素晴らしく上手くやってるよ!」と答えるというわけ。国民に目を向けないどころか、接触の窓口すらないよ。接触を持つのは、彼を大統領にしたごく一部の人間だけ。弟だとか、チェイニー、ラムズフェルド、右翼の徒党たち、そして軍人、実業家ね。しかも、イラク再建契約でもって癒着企業に仕事を与えようとさえしている。チェイニーは、ハリバートン(世界最大の石油掘削会社)の元CEOで、契約はハリバートンに行くことになっている。ベックテール・ハリバートン。同じメンツだよ。ベトナム戦争に荷担したのと同じ奴等さ。それでわかるだろ? だいたい想像ついちゃうよね。
行政機構は変わったところで、世界の力は変わらないよ。一部のエリートが我々の耳に入る情報をコントロールする。どこの国でも同じさ。違う? 人々は生きていることの意味、どのように生き、どのように物事に影響を与えて生きているか、ということを問い直す必要があると思う。僕は人がどう考えているかには左右されないよ。
MS: それでは、最後の質問ですけれでも…。あなたの国のリーダーは、次も再選されると思いますか。
JB: 僕としては絶対にそうなってほしくないと願っている。この一年で経済がどうなるか、どれだけの企業がブッシュの企業犯罪に荷担していたか、なんかが露呈されれば、と思うよ。エネルギー産業の規制と規制緩和。僕は、この一年半ぐらいの間に国民は経済を再評価する必要があると思う。
それと、この世界が安全か、この右翼のイデオロギー、ブッシュとアシュクロフトで世界の安全は守れるか、それとも危険に陥れるか。繁栄するか衰退するか。世界共同体の一員が増えるか、それともラディカルな共産国が増えるか。国民がこれらの問いについて深く考えるなら、おそらくブッシュが再選されることはないと思う。ブッシュ・シニアのときと同じだよ。彼は70-80%の支持率を得ながら、2回目には負けた。この可能性だってある。そう願うね。
MS: オーケー。
JB: インタビューしてくれてありがとう、モト・サノ。君のレコードをぜひほしいよ。
MS: もちろん、送りますよ。ありがとう。
JB: ありがとう。
MS: 長くなってしまって…
JB: いえ、僕のせいでね…
収録: 2003.4.23
場所: 新宿ヒルトン・ホテル
聞き手: 佐野元春
翻訳:古沢 幸 |
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