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取材・編集:今井健史・森本真也
デザイン:小山雅嗣[Beat Design] 撮影:宮田正秀 編集協力:スントー事務所 |
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駿東 宏と佐野元春の出会い 駿東 宏と佐野元春。この二人のアーティストの出会いは今から15年以上も前に遡る─ 駿東●僕と佐野さんとの一番最初の仕事は『ELECTRIC GARDEN #2』でした。その当時、雑誌『THIS』をCBSから扶桑社に移して自費出版するというときに、佐野さんが文字をきちんとデザインしてくれる人を捜していたんですね。その時に僕が作っていた「デザイン詩集」というのがあって、たまたま佐野さんがそれを見たんです。で、見た日にいきなり電話があって、(仕事を)10年やってくれって頼まれたんですよ。 実に元春らしいアプローチから始まった二人のコラボレーションは、まず『ELECTRIC GARDEN #2』として世に打ち出される。その後もアルバム『Cafe Bohemia』から『フルーツ』までのアートワークを制作するなど、駿東氏は佐野元春作品に対して常に的確なデザインを与え続けてきた。 駿東●佐野さんとは今までに色々な作品を作ってきたんだけど、自分がアートディレクターとして仕事するときは、佐野元春を演出するという発想ではなく、佐野さんと一緒になってデザイン物を作っていたという感じですね。佐野さんからすると僕の役割というのは、佐野さんのプロジェクトの中のある一角を完全に占めるやり方の仕事なんですよ。だから逆にそれ以外やらせてもらえない(笑)。でも、きっと佐野さんは僕の作るグラフィックデザインが好きなんだと思います。 ![]() 駿東●基本的には『ELECTRIC GARDEN』と同じコンセプトを持っているんです。 今回も「Verbal、Sonic、Visual」というキーワードがあり、そのトライアングル自体は、ミュージシャンである佐野さんとはちょっと違う、アーティストの佐野さんを的確に表わすコンセプトなんだと思います。佐野さんは絵も描いたりしてるし、あと普段の友達づきあいで出てくるフとした表現とかもあるわけですが、そういうものを思いっきり純化した作品になってますね。 実は僕が3期目の『THIS』をやっていたときに、新しい『ELECTRIC GARDEN』の話は出たんですよ。その時はいわゆるデジタル化したメディアで出したかったていうのがあったみたいなんですけど。ただ、その時はまだ忙しかったんだと思うんですよ、いろいろと。 そういう意味では今回はデジタルツールによる制作なわけですが、デジタルになったから表現の質が変わったということは、あんまり無いんです。ただ、デザインに関しても音楽に関しても、よりPerson to Personで作っていけるようになったのが大きいかな。佐野さんの仕事のやり方はデジタル向きですね。仕事の整理の仕方が、ファイルを整理する、フォルダを整理するのに近い感覚で進みますからね。だから今回も急に始まって、急にその10年間を凝縮したような作業になっていったりするんだと思うんですけど。 アートボックスの全体像 ![]() 駿東●まず佐野さんから電話があって内容を聞いて、それから始まったということで、非常にシンプルで何もないところから作っているという感じです。だからどんどんアイテムが増えちゃって、今すごい内容になっていますよ。 今回のアートボックスは箱の一番下に佐野さんが描いた絵があるんです。その上にA4サイズで200ページ強の「ポエトリーブック」が入るんですね。それに加えて佐野さんが自分で作った「テクスチャーブック」があって、「In motion 2001」のライブCDが入る。そこの横に「ウィズダムカード」という言葉のカード集が入る。さらに「トラベルブック」という、買った人が自分で作る本が入ります。 そして「フリップブック」という言葉が動くアイテムと佐野さんの写真集である「グラフィックブック」が入るんですよ。それに、ポエトリーブックのいろんなオマケが入るんですね。最後に佐野さんからのメッセージカードが乗って完成になるんです。 これだけの内容が詰まっているので、完成したボックスは結構重いんですよね。 実にさまざまな作品がワンボックス化されており、全体の情報量も膨大なものになりそうだが、駿東氏によると情報量は意外と少ないという。その代わり、佐野元春の音楽以外のアーティスト性が立体的に理解できる作りになっている。 駿東●この作品が理解できる人は本当の佐野元春ファンなんじゃないでしょうか。だからミュージシャン佐野元春のファンだけじゃなくて、芸術的に佐野さんを理解してる人も、これは手にすべきだと思いますよ。僕は、佐野さんのファンというのは彼のいろんな部分を期待している人が多くて、「元春だからこういうことをやってるんだろう」と常に考えているんだと思うんです。でもね、この作品に関してはそういう読みとり方をするのではなく、純粋に遊んでもらったほうが面白い、そんな作りになっています。 1万円以上の価値 ![]() 駿東●最初は5〜6千円くらいのものだったんですよ。でも、話しているうちにあれもやりたいこれもやりたい、あれもやんなくちゃいけないとだんだん要素が増えていって。それでも冷静に考えたらやっぱり1万円が上限だろうと。もしこれが締め切りのない仕事であれば、たぶん10万円くらいになっちゃうと思うんですよ。今回のアートボックスは大量生産向きのものでは決してなくて、自費出版的なものの集大成なんですよね。だから、こういう丸い形の穴あきカード(と、アートボックスに収められるパーツのひとつを手にする)も、レコード会社がCDパッケージの中に入れるのは難しいものなんです。 ![]() 新しい世代のアーティスト達に向けて ![]() 駿東●作品を作っているときって、自分以外は全部敵なんですよ。「敵」って言い方はちょっと相応しくないかもしれないけど、佐野さんのファンのためだけに作るというのではなくて、僕はまず同業者をびっくりさせなきゃいけないし、他の業界の人、佐野さんの周辺にいる人たちに対して、やっぱり攻撃的な部分を見せたい。そうじゃないと僕なんかやってる意味ないなと自分で思いながらやってるから。 だから自分としては、このアートボックスを手にした人に対して「どうだ!」って感じがある。例えば自分が作ったものを自分の子供とかも見るわけじゃないですか。僕も上の世代が作ったものを見て育ったわけだし。そして上の世代に対する尊敬というのもあるけど「自分も負けてないぞ」って思い、物作りにハマる。だからこれを見て同じような気持ちになって、将来的にデザイナーになるような人が増えると良いなと思いますね。デザイナーって、何かつまんない仕事だと思ってる人がいるかもしれないけど「そんなことないよ」って、この作品を通じて言いたいところはありますね。
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