佐野●昔であれば、都市部に製品が出ていくまでにいろいろと中間的に通過しなければいけないものがあったんでしょうけど、今はネットを使った直接の販売とかが可能になっている。それが前の世代、お父様の世代から比べて一番大きな違いなんじゃないですか?
新村●そうですね。去年からウチもネットでショッピングが出来るようになりまして、インターネットで直接販売すればお客様とメールなりで直に会話ができます。それが旧来のものですと、間に問屋さんが1つ2つ入って店舗に並んで、そうなるとどこでどういう風に売られているか分からなくなってきたりしちゃうんですね。
佐野●お客さんと直に商品を挟んでやり取りをしているという感じが、新しいと思いますね。
新村●たとえば東京でこのジャムを食べたお客様が、北海道に来た時に「しんむら牧場に寄りたいな」と思っていただけるのがWebサイトの強みでもあると思うんですね。そういう風に商品を知って来ていただいて、東京でまたこの環境を思い出しながら食べていただけるような、そういう関係づくりをしていきたいなと。
佐野●まさにその通りですね。僕も街で生まれ育ったからよく分かるんだけれども、いろいろと間を通ることによって生産者の方の気持ちといったものが分からなくなってきちゃう。だから、ものを祖末にしちゃう。でも、実際に生産者の人たちの気持ち、哲学を知れば、やっぱり大事にいただきますよね。だから、それが実際どういう現場で作られているのか、どういう仕組みで生まれてきているかというのを見る、そのフィードバックのところまでやっていきたいという考えは、僕はすごく新しいと思いますね。
新村●やっぱりそこですよね。今まで農家というのは生産しか考えてなかったですよね。だから、生産したものをその先まで責任を持って食べていただかないといけないと思うんですね。
佐野●先ほど食肉のお仲間を紹介頂いたけれども、彼らは新村さんとはチームワークを組んでやられているんですね。
新村●そうですね。ウチで生まれた雄牛は、まず次の農家に行って肉牛用として育てられて、スーパーマーケットに並ぶまですべて分かるようになっているんですよ。そうすると、この肉は本当に安心して食べていただけますよということも訴えられますし、食べてる餌から今どこにいて体重何Kgという、それがすべて分かるようにホームページ上で公開してます。
佐野●やはり食肉用の牛と乳牛、それぞれの一生というのは違うんでしょう?
新村●食肉用は2年くらいで食肉になってしまうんですけど、こういう酪農用の牛たちは元気であれば10年から12、13年、もっと先まで大丈夫だと思います。
佐野●みんな健康そうですよね(笑)。
新村●太陽をきちんと浴びてビタミンも吸収していますから、ツヤが違うと思うんですよね。
佐野●当然、精神的なストレスもなく育てられている。
新村●牛も人間と同じで、ストレスから胃潰瘍的な病気になったりします。繋ぎっぱなしの牛舎だと神経が過敏になっていて、人間がちょっと一歩踏み入れるとみんな立ち上がったりとか、そういった部分が全然違いますね。目とか見ていただいても、すごくおとなしいというか。
佐野●そうですね。それと、白黒のに混じって、とってもおとなしいジャージー種がいますが…。
新村●今は2頭ですね。
佐野●これは牛乳専用ですよね。
新村●そうです。まぁ、見た目に可愛いのと性格もおとなしいです。あと、ウチのような形態ですと、彼らは自然に生えている草を有効的に食べる胃袋を持ってるんで、とても適しているんです。こうやって本当に人なつっこいんですよね。
佐野●目も優しいですよね(笑)。あと、ボーダーコリーが一人いますけど、あれも牛のコントロールを。
新村●そうですね、スタッフの一員です。仕事をした証にこれだけ汚れてますけどね(笑)。
佐野●やっぱりテレビで見るように、牛舎に導くというようなのが役割ですか?
新村●そうですね、牛舎に導いたり、あと搾乳の時に入らない牛を追ったりとか。

佐野●この牧場を核にして、多分いろんなことを考えられていると思うんですけど、将来的な夢というか……。
新村●夢はですね。今はまだ工場しかないんで、まずはお店というか食べられる環境を作って、来ていただいたお客様がこの自然の中で時間を楽しめるような場所を作りたいなと。
佐野●それはうれしいですね。
新村●農業っていうのは、英語で 'アグリカルチャー' と「カルチャー」という言葉が入っているように、文化であったり人間形成も重要な役割だと思うんですね。そういう部分が今までほとんど手を付けられないで、生産性しか考えてこなかったと思うんです。将来的には、人間形成という部分で、たとえば学校みたいなコミュニティを作って、ここで子どもがいてお年寄りもいて、コミュニケーションがきちんと取れて、食べ物を作ったりとかですね。その辺に腰を下ろして牛乳を飲むでもいいですし、テントを張って星を眺めても良い。まだ具体的にどうのというんじゃないんですけど、こういうところで草の大切さとか土とか牛とかに触れて、そうした体験を通して人間形成までつながるような、そういう必要性は最近特に感じますね。いろんな事件とかを聞くと、今、人間が精神的に間違った方向に行ってるのかなと……。
佐野●そうですね、だからこそ僕くらいの世代からは、地球上に生きていく正しい意識というか、それを全うしていくきちんとした権利意識とか、そうしたものを次世代に残していくのが良いんじゃないかなと思うんです。これまでのかなり急速な成長と言ったものの中で、教育もそうなんだろうけど、特に僕たちの日常生活の中で一番大事な「食」に対する正しい意識といったものがかなり崩れてきている。出来るんだったら生産している方と気持ちを通わせながら、自分が摂取するものに対して意識的でありたい。これは理想かも知れないんだけれども、でも、少しずつ新村さんくらいの世代の方たちから、こういう実践を通してやられているのは素晴らしいなって、そこを感激したんですよね。
新村●ありがとうございます。やっぱり、ただ単に生産していても、多分これからの時代、農業を続けていくのが難しいと思うんですね。食べる人も含めて一緒に作っていくという気持ちというんですか、この環境を知ってもらうというのが大きな意味があるんですよね。
佐野●これを経験するとしないとでは、全然違いますね。
新村●北海道旅行に来られても、普通は表面的な観光地を回って終わるだけだと思うんですけど、実際にこういう中で牧場体験、自然の中に放たれている牛で搾乳をしていただく、それでもまた大分違うと思います。とにかく、この環境を守っていくのが僕たちの仕事だと思っていますから。一昔前は「略奪農法」でどんどん地球のエネルギーを奪って生産性を追求してきたと言われています。これからはそうではなくて「循環型農業」にしていかないといけないと思うんです。


佐野●そうですね。おそらく新村さんくらいの世代は、酪農現場での自然なリサイクルということにものすごく意識をもって実践を始めた世代なのかなと、僕は思いますね。お父さんの時代はやっぱり違ったんでしょ?
新村●そうですね、やはり、生産性を上げるというのが目的でしたね。でも、今の時代もまだまだ実践できてないと思うんです。
佐野●古い構造がまだまだ周りに残っていますか?
新村●ええ、農業は封建的な部分も根強いですし、まだ閉鎖された社会という部分もありますから。
佐野●でもネットは、そういうバリアを破っていく、ひとつの道具かもしれないですね。……もう1個食べても良いですか?(笑)
新村●どうぞ!
佐野●……うん、美味しい!


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