佐野●この牧場を核にして、多分いろんなことを考えられていると思うんですけど、将来的な夢というか……。 新村●夢はですね。今はまだ工場しかないんで、まずはお店というか食べられる環境を作って、来ていただいたお客様がこの自然の中で時間を楽しめるような場所を作りたいなと。 佐野●それはうれしいですね。 新村●農業っていうのは、英語で 'アグリカルチャー' と「カルチャー」という言葉が入っているように、文化であったり人間形成も重要な役割だと思うんですね。そういう部分が今までほとんど手を付けられないで、生産性しか考えてこなかったと思うんです。将来的には、人間形成という部分で、たとえば学校みたいなコミュニティを作って、ここで子どもがいてお年寄りもいて、コミュニケーションがきちんと取れて、食べ物を作ったりとかですね。その辺に腰を下ろして牛乳を飲むでもいいですし、テントを張って星を眺めても良い。まだ具体的にどうのというんじゃないんですけど、こういうところで草の大切さとか土とか牛とかに触れて、そうした体験を通して人間形成までつながるような、そういう必要性は最近特に感じますね。いろんな事件とかを聞くと、今、人間が精神的に間違った方向に行ってるのかなと……。 佐野●そうですね、だからこそ僕くらいの世代からは、地球上に生きていく正しい意識というか、それを全うしていくきちんとした権利意識とか、そうしたものを次世代に残していくのが良いんじゃないかなと思うんです。これまでのかなり急速な成長と言ったものの中で、教育もそうなんだろうけど、特に僕たちの日常生活の中で一番大事な「食」に対する正しい意識といったものがかなり崩れてきている。出来るんだったら生産している方と気持ちを通わせながら、自分が摂取するものに対して意識的でありたい。これは理想かも知れないんだけれども、でも、少しずつ新村さんくらいの世代の方たちから、こういう実践を通してやられているのは素晴らしいなって、そこを感激したんですよね。 新村●ありがとうございます。やっぱり、ただ単に生産していても、多分これからの時代、農業を続けていくのが難しいと思うんですね。食べる人も含めて一緒に作っていくという気持ちというんですか、この環境を知ってもらうというのが大きな意味があるんですよね。 佐野●これを経験するとしないとでは、全然違いますね。 新村●北海道旅行に来られても、普通は表面的な観光地を回って終わるだけだと思うんですけど、実際にこういう中で牧場体験、自然の中に放たれている牛で搾乳をしていただく、それでもまた大分違うと思います。とにかく、この環境を守っていくのが僕たちの仕事だと思っていますから。一昔前は「略奪農法」でどんどん地球のエネルギーを奪って生産性を追求してきたと言われています。これからはそうではなくて「循環型農業」にしていかないといけないと思うんです。 佐野●そうですね。おそらく新村さんくらいの世代は、酪農現場での自然なリサイクルということにものすごく意識をもって実践を始めた世代なのかなと、僕は思いますね。お父さんの時代はやっぱり違ったんでしょ? 新村●そうですね、やはり、生産性を上げるというのが目的でしたね。でも、今の時代もまだまだ実践できてないと思うんです。 佐野●古い構造がまだまだ周りに残っていますか? 新村●ええ、農業は封建的な部分も根強いですし、まだ閉鎖された社会という部分もありますから。 佐野●でもネットは、そういうバリアを破っていく、ひとつの道具かもしれないですね。……もう1個食べても良いですか?(笑) 新村●どうぞ! 佐野●……うん、美味しい!
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