対談“King Bird Meeting”

取材・編集:吉原聖洋・今井健史・森本真也
デザイン:小山雅嗣[Beat Design]
編集協力:M's Factory


─まず、武藤さんと佐野さんにとってネルシャツとは……というところからうかがいたいと思います。

武藤 ●やはり生活の一部っていう感じがしますね。基本的にこれがなくては何も始まらないみたいなところがあります。平たく考えると労働者の普段着とか生活着になるわけですが、別に労働するから着るっていうものじゃなくて、普段の生活におけるあらゆるシチュエーションで無くてはいけないものだと思っています。いつも洋服を作るうえでネルシャツは欠かしたことはないですから。

佐野 ●僕は小学校高学年から自分の着る服について意識し始めて、自分で洋服を選ぶようになったときに、ワークシャツとかネルシャツを好んで着るようになりました。良いところは、どんな場所でも自分の気持ち次第で着こなせてしまうこと。まだ10〜11歳の頃は世の中にどんな洋服があるのかよく知りませんから、手本になったのは自分の好きなロック・ミュージシャンのファッション。ネルシャツといえば、僕の場合はニール・ヤングだね。たしか7インチ・シングル盤「オハイオ」のジャケットで、彼がよく着ているチェックのネルシャツをジーンズの上にダラーンとさせて、愛用のグレッチをガンガン弾いてるシーンがあった。他愛もないワンカットなんだけれども、それが妙に心に焼き付くわけです。それで、ああいうチェックのネルシャツを探して歩いたことを覚えています。

武藤 ●僕もロックは大好きですが、佐野さんが言われたようなシチュエーションだと僕の場合はイーグルスのジョー・ウォルシュ。彼はネルシャツにバンダナがひとつポイントになってたんですけど、とにかくそれが強烈だったことを覚えています。それで、やはり佐野さんと同じく、あれはどこへ行ったら買えるんだろうと色々探しまわるんですけど、似たようなものはあっても、やっぱり同じものはないわけです。

佐野 ●そうなんですよ。あの微妙な襟ぐりの感じとか、パンツの外に出したときの長さ、スリットのニュアンス。そういった細かいディテールがやっぱり違うんです。探し求めてるものはなかなか見つからない。同じネルシャツでもその時代時代によって、細いのか、ゆったりしてるのか、襟のディティールは狭いのか広いのか、微妙に違うものなんでしょう?

武藤 ●そうですね。ネルシャツのようにいつの時代にもあるスタンダードなものは、いつもそばにあるものだからこそその時代性を考えたデザインが求められる。ディティールや柄などすべての面で時代に対応したものを注入しておかないといけません。そこを如何に皆さんに感じてもらえるかっていうところが今回も気にしているところですね。

武藤 ●僕が服を作るときにはアメリカのミュージシャンなどをモデルにして、そこから如何に自分なりにアレンジしていけるのか、ということ。第三者に着ていただくわけですから、そういう意味での「擬似のボディ」を考えながらデザインしていますね。たとえばジョー・ウォルシュやニール・ヤングをモデルにして……。

佐野 ●今年のフジロックの話を友人から聞いて、ちょっと画像を見たんですけど、ニール・ヤング、爆発オヤジですね(笑)。その爆発オヤジのネルシャツっていうのも僕はOKって感じだった。ニール・ヤングのように経験も積んだオヤジがロック魂をもって素敵なチェックのネルシャツを着ている姿というのも僕はOKだと思う。

武藤 ●そうですね。ちょっと前のツアーでの写真を見たら、やはりブラックビューティー(*1)にネルシャツなんですけど、下が短パンにサンダルだったんです。この人はすごいと思いました(笑)。

佐野 ●僕はニール・ヤングに会いに行ったことがあって、彼の広い農場に着いて車が母屋の玄関のところまで進むと、ニール・ヤングが迎えてくれているわけですよ。車から降りて彼を見たら、かつて脳裏に焼き付いていた7インチの「オハイオ」のシャツと同じものを着ていたんです(笑)。そのとき「この人はずーっとこれなんだな」って納得させられるものがあったんですね。それは“スタイル”といえばいいのかな。スタイルというのは、洋服の形という意味だけではなく、その人の生き方のスタイル。そうした頑固な考えが彼の音楽にも詞にも、着る洋服にも、それから彼の顔のしわにも出てるんだな、ということを強く感じて、僕は嬉しかったんですよ。

武藤 ●ニール・ヤングとパールジャムの「ミラーボール」ってアルバムが最近の作品では一番好きなんです。あのアルバムでの演奏はいま聴いても鳥肌が立ちます。若いミュージシャンを包み込んじゃうオーラ、そういうのが僕はニール・ヤングのすごいところなのかなって思います。そしてパールジャムの連中もニール・ヤングとプレイできること自体をすごくリスペクトしている。

佐野 ●音楽だけのリスペクトだけではなく、ニール・ヤングの音楽に対する姿勢へのリスペクトというのも、パールジャムには感じる。パールジャム自身にも非常に硬派な部分がある。そうした反骨精神も上の世代のニール・ヤングから学ぶところが多いんじゃないかな。システムに迎合されることを心地よいと思わないロックンロール・ボヘミアン。そうしたボヘミアニズムとネルシャツというのは結びついてくるような気がしているんですよ。

武藤 ●ネルシャツはこの秋冬のトレンドとしてはキーのアイテムなんです。ですから今、世界のデザイナーたちもそういったアプローチをしているんじゃないでしょうか。

佐野 ●御来光レーベルとしてのコンセプトはどんなところにあるんですか?

武藤 ●昔からあるオーセンティック(*2)な素材を使いながら、時代を超えたニュー・スタンダードを作り続けていたいと考えています。僕はトラッドの世代ですから、それが基本になってると思うんですけど、逆にそうしたものを壊したくてこの仕事を始めたいうのがあるんですね。だから、非常にイギリスのパンク的なアプローチなのかな、と最近自分でも思っています。

佐野 ●ロック音楽とファッションというのは、密接に結びついているところがありますね。究極のロック・ファッションは何かって言われたらば、僕は裸だと思うんだ。何も着ない。僕が知ってる限りではマーク・ファーナー(グランド・ファンク・レイルロード)から始まって、野外ステージで裸になるロッカーってたくさんいるんですよ。時代が経っても一年に一人ぐらい必ず出てくるんだよ。それで僕もその列に入らなくちゃいけないと思って、横浜スタジアムのライブ(*3)のときに遂に裸になりました。嬉しかったですね。

武藤 ●やはりそこですね。何も要らないんだと思うんですよ。自分もそういう意識で洋服を作っていて、基本は本当にもう要らないんだ、と。それは決して否定しているわけではなく、究極としては何もないものが一番カッコいい。やはり飾りのないものをできるだけ作りたいと思っています。今回のネルシャツでも“ネイキッド”がひとつのテーマになっていたので、余計なものを削ぎ落として、胸ポケットも取ってしまいました。

佐野 ●オーソドックスなものというのは、なかなか人目にはつきにくい。けれども、しかしその良さを発見してくれた人にとってはとても大事な必需品になっていくと思うんです。だから洋服を探すときに気にするのは、やはり時間が経ても心を捉えられるオーソドックスな何かですね。これは“普遍性”って言っても良いんじゃないかな。ただ、オーソドックスなものだけ着ていれば良いっていうと、これはファッションに対して消極的だなって思うんです。生まれてきた限りはファッションも人生も楽しみたいわけですから、そのオーソドックスを如何に自分なりに崩して着こなしていくかというのが一番の楽しみなんじゃないかな。

武藤 ●たしかにそうだと思います。今回のネルシャツもオーセンティックで普遍的なものですから、いろいろな個性の人たちに自分らしく着こなして欲しいと思っています。楽しみですね。

*1 … 黒いギブソン・レスポールにつけられた愛称
*2 … 由緒正しい、の意。とくにファッションにおいては実用的なものを示す場合も多い
*3 … 1987年に行なわれた「Cafe Bohemia Meeting」での出来事。

http://www.moto.co.jp/live/live_record/Live/Cafe.html

プロフィール武藤 修 [Home Page : http://www.golike-o.co.jp/]
1991年「御来光」をスタート。「ニュースタンダード」を掲げ活動。ユナイテッドアローズとのダブルネームも展開中。'Rock & Soul Review'ツアーの衣装提供により元春と出会う。

元春ネルシャツ・ヒストリー
元春のネルシャツ・ヒストリーをライブ写真とあわせてご紹介。

ネルシャツ詳細ぺージ
今、MWSストアでは、'KingBird' meets '御来光' コラボレーション・ネルシャツを販売しています。
限定90枚。
<<< ネルシャツ詳細を購入する。



Contact Us
Copyright 2001 M's Factory Music Publishers, Inc. Sony Music Entertainment, Inc. All rights reserved.