ニュー・ジェネレーションのための佐野元春CDガイド
moto's note:
みんなが愛してくれる佐野元春流儀のポップ・アルバム。そんなアルバムを作りたいと願ってきた。...

みんなが愛してくれる佐野元春流儀のポップ・アルバム。そんなアルバムを作りたいと願ってきた。このアルバムがそれだ。僕が一人で構成されている「バンド」だとしたら、それぞれのメンバーがそれぞれのスタイルで曲を作り演奏しているようなアルバム。多種多様なフルーツが盛りつけられたバスケットを想像してほしい。ポップからアバンギャルド、ロック、R&B、フォーク、スポークンワーズ等々。ジャンルはどうあれみんな佐野元春だ。これまで過去の偉大なポップ音楽に影響されてきたが、ようやくこのアルバムで真のオリジナリティーを掴んだ気がした。僕はこのアルバムを母に捧げた。



MWS●この『Fruits』というアルバム、そのバラエティの広さは「幕の内弁当」というどころかフルコースって感じですね。『No Damage』に続いていろんな皆が楽しめるアルバム、どんな人でも自分にバシッとハマる曲が絶対あるだろうというくらい、バラエティ豊かなアルバムだと思います。

佐野●ひとことで言えば「日本語で聴けるすごく楽しいポップアルバム」。英語とか、他の文化圏の言葉で聴ける極上のポップアルバムってたくさん知っているけど、自分の文化の言葉で聴けるって、やっぱり一番嬉しいよね。そういうファンの気持ちに少しでも応えたいと思って作ったのが、この『Fruits』なんだ。僕の引き出しにあるいろんな音楽要素をひっぱりだして縦横無尽に編集して、僕のファンに見てもらった、そんな感じだね。

MWS●このアルバムはまさに「佐野元春流ホワイト・アルバム」と言うことができると思います。ただ、ビートルズのように各メンバーが平等な立場でソングライティングするバンドだと音楽的にバラエティが出やすいですが、佐野さん一人からそういうエッセンスが出てくるというのがとても面白いです。

佐野●'80年代初期、伊藤銀次と組んでいたときに彼からよく言われたのは「佐野くんは一人ビートルズだよ」って。まぁ、彼の言いたかったことは、4人のばらばらな音楽性がビートルズサウンドにバラエティさを与えているのだとしたらば、僕の中にいろんな種類の音楽性があって、あたかもそれがバンドアルバムのようにまとめ上げられるから、それが面白いということだと思うんだよね。

いろんな種類の音楽性を体の中に秘めているといえば、やっぱりブライアン・ウィルソンは凄い。あと、トッド・ラングレン。彼も優秀なフロントライナーであり、プロデューサーでもあり、引き出しが多い。で、そういう人たちはとかく「ポップオタク」とか言われてしまう(笑)。あまり「佐野元春ってポップオタクだよね」って言われたことはないけど、でもよくよく自分自身を見てみると「何でこんなどうでもいいことをいつまでも覚えているんだろう?」とか「こんな知識よりも、他に得る知識はあるだろう?」みたいなものが正直に言うとある(笑)。それが引き出しの中にしまわれてるわけだけれども、それをてらいなく全面に出したのがこの『Fruits』なんだ。でも、どうだろう? 僕はおかずがひとつよりも幕の内弁当のほうが好きだけど(笑)。いろいろとあったほうがワクワクウキウキするというか。だから今でも、幕の内弁当的なアルバムは好きだよ。

MWS●アルバムとしてはもちろん、1曲の中でも幕の内弁当的な要素が詰め込まれているのが凄いですよね。音楽的なところでいうと、例えば「水上バスに乗って」などは、普通に聴くとストレートなロックンロールですが、出だしからのコードチェンジなどもユニークで「いったい何をやってるんだ?」って(笑)。

佐野●あれも変わったイントロだよね。レコーディングに参加してくれたプレイグスの深沼元昭くんが、若いのにグレイトフル・デッドやCCRが好きだって言うから、その彼が「ウェヘヘイ」って言ってくれるようなリフを作ろうとしてやったのが、あのイントロ。「水上バスに乗って」という曲について言わせてもらえれば、あれは僕の中で言えば、自由を求めるグレイトフル・デッドだ。「ピース」が根っこにある。僕の曲にはどの曲にもそれなりのバックグラウンドがあって、なぜこういう曲になったかという理由がある。説明しようと思えば全部説明できると思う。

『Fruits』の中では個人的には「恋人たちの曳航」が好きだな。この曲は意外と複雑な構造をしていて、1曲の中でテンポが3回変わってる。リズム的に複雑だからセッション・プレーヤーも最初困っていたな。メロディーでいうと繰り返しがなく、ずっと変化していくんだ。聴き手に次々に新しい経験をしてもらう、といった造り。ちょうどバート・バカラックと同じ手法だ。バカラックのメロディーはほんとうに素晴らしいね。ソングライターとして彼に影響を受けたところは大きい。

MWS●詞の面でもそれまでになくユニークで、「日の出桟橋」とか出てきますよね。

佐野●ああいうローカルな地名を出すのは初めてだったかな? 『Fruits』は「僕の庭で始まり、僕の庭で終わる」というテーマだったんだ。'80年代から'90年代、特に欧米のポップ音楽を通じていろんな経験をしてきて、一巡りしたなというくらいの年代だった。そして、自分の庭に帰ったときに、自分の身の回りにあるものを正直に歌にすることがごく自然に出来るようになってたんだ。
[収録曲]
1.インターナショナル・
 ホーボー・キング

2. 楽しい時
3. 恋人達の曳航
4. 僕にできることは
5. 天国に続く芝生の丘
6. 夏のピースハウスにて
 (インストゥルメンタル)

7. ヤァ!ソウルボーイ
8. すべてうまくはいかなくても
9. 水上バスに乗って
10. 言葉にならない
11. 十代の潜水生活
12. メリーゴーランド
13. 経験の唄
14. 太陽だけが見えている
  - 子供たちは大丈夫

15. 霧の中のダライラマ
16. そこにいてくれてありがとう
  - R.D.レインに捧ぐ

17. フルーツ
 - 夏が来るまでには

※曲名をクリックすると試聴できます。(QuickTimeが必要です

Fruits
レーベル:Epic Records
商品番号:ESCB1741
発売日 :1996.07.01
価 格 :¥3,059(税込)






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