ヒートアップ実行委員長
鹿毛不二彦様
ご無沙汰しています。お元気ですか。
お手紙を拝見しました。
「ヒートアップ・フェスティバル」のお知らせが来る度に、ああ、もうその季節なのだなと感じて、毎年楽しみにしていました。今回が最後とのこと、決断に至られるまできっといろいろな悩みがあったと思います。きっと各方面の方々からやかましく理由をたづねられているでしょうが、あまり気になさらないでください。
鹿毛さんと年令も近いということもあって、毎回出版なさっていたミニコミ紙も同感 の思いで拝見していました。10年に渡る「ヒートアップ・フェスティバル」も鹿毛さんのロック音楽に対する強い愛情があってこそのことだと思います。10年という長い時間続いたということ、またその間に多くの人たちと時間を共有できたということ、を考えると、鹿毛さんはもう十分にロック音楽への愛情を証明できたのではないでしょうか。僕はそう思うのですが。まちがっていたらすいません。
ロック音楽への共感と失望、期待と幻滅はこれからもくりかえされるでしょう。ただ、誰にも気づかれないささいな瞬間、それはたとえばどこかのDJが流す「When You Walk In The Room」のイントロが聞こえてきた瞬間、今でも僕の胸をある直感がすばやく駆け抜けていきます。「無邪気に信じていた夢や希望。おとなになってしまった今、もう一度抱きしめ直しても悪くはないだろう...。」そんな種類の直感です。
ぼくはけっして「When You Walk In The Room」をなつかしく感じているわけではないのです。この曲がいつ作られていつヒットしたのかも興味ありません。ただ場所と時間を超えて僕にユニバーシャルな意識を運んできてくれる、そんなマジックを感じるということなのです。そしてもしこんな感じ方をだれかと共有するのであれば、 ひとりかふたりで十分なのだろうと思います。同じ時代に育ち、同じ風景をみてきた真の友達とともに。
「ヒートアップ・フェスティバル」の10年間、ほんとうにごくろうさま。そしてどうもありがとう。今回はテープで会場の不特定の人たちに伝えるより、鹿毛さん個人にだけ伝えたい気持ちが大きかったのでこうした手紙のかたちをとらしてもらいました。許してくださいね。
ロック音楽は僕らの過去と未来をつないでくれます。ロック音楽から恩恵をこうむった僕らは、すぎさった過去から新しい未来をつむぎだすことができるはずです。僕はきっとそう信じています。
10回目の「ヒートアップ・フェスティバル」のご成功をお祈りして---。
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