ハートランドからの手紙#97
掲載時:96年8月
掲載場所:佐野元春トリビュート・アルバム「BORDER」
掲載タイトル:佐野元春トリビュート・アルバム「BORDER」発表に寄せて

このアルバムは夜空に発火する一瞬の奇跡のようだ。
所属するレーベルを越えての意志ある共演。
ビジネスの壁は破れない、とベソをかいているのは誰だ?

このアルバムは、僕の所属するレコード会社ではなく、
また、僕の楽曲の権利を保有する出版社ではないところから立ち上がった。
そのことが示唆する意味は大きい。

このアルバムは夜空に発火する一瞬の奇跡のようだ。
不可能を可能にしたのは一人の女性。
彼女の名は、佐藤奈々子。
共に闘う同志。創造の女神。

彼女は、「点」でしかない僕を、「流れ」に置いてくれた。
彼女は、「見えなかった」線を「見えるように」してくれた。
世代や、取引きや、理屈や、愛や憎しみを越えて、
ただ一点、「ある重要な目的」のために、覚醒し続けたんだろう。

このアルバムに込められた、ある重要な目的。
それはあまりにナイーブすぎて言葉にならない。
もし、佐藤奈々子の言葉を借りることが許されるなら、
それは、「美しい痛み」に近いもののように思う。

僕は覚醒者でありたい。
佐藤奈々子が覚醒者であるように。

このアルバムに参加した表現者たちと、
僕は、いづれどこかで会うだろう。
そのときのために携えたい言葉がひとつある。

オルタネイティブとはすなわち、すべての「BORDER」をぼかすこと。

野心を持って笑い飛ばせ。

1996.夏
佐野元春



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