07 | 都市に暮らす少年少女たちのための初期三部作
1982 -1983



 70年代半ばだったろうか。「シティ・ミュージック」という言葉が音楽の世界で使われたことがある。特定の音楽ジャンルを指し示す呼称というよりは“田舎の音楽”=カントリー・ミュージックに対する“都市の音楽”として、ニューヨークやロサンジェルスなど大都市で作られたコンテンポラリー・ロックのある部分をそう呼んだのだ。 

 しかし、1950年代半ばに登場したロックンロールが、都市に住む中産階級の白人の若者達に絶大に支持されて大きく発展した“都市の音楽”という側面を持っていたと考えるなら、ロックは最初から「シティ・ミュージック」だったといえるわけだ。 

 佐野元春という「作家」は、ロックのこうした性格を認識したうえで曲を書いてきた。たとえば、デビュー・シングルになった「アンジェリーナ」では、街の夜の光景とそこに暮らす若い男女のやるせなさの残るロマンスが歌われている。佐野は、そうした歌の登場人物にやさしい視線を投げかけ、3人称を使ってその姿をクールに描写した。そして、そうした歌をホットに歌ってみせたのだ。 

『Back to the Street』と『Heart Beat』、そして『SOMEDAY』という最初の3作(都市に暮らすティーンエイジャーたちに捧げられたシングル集『No Damage』も加えていいかもしれない)を通して、佐野は、都市に生活する若者の感情を詩的に描いた歌詞と、耳に残るメロディ、そしていきいきとしたロック・ビートをひとつに結びつけた。彼がデビュー当初から熱心に取り組んできた《荒廃した都市に息づくイノセンス》というテーマが、この“初期3部作”で完成を見るのである。

 十代を歌った歌は日本にも多いが、佐野は若者の姿を安易に美化することなく、思慮深くロックンロールとして歌いあげた。それらは、「日本語のロック」の80年代に入って最初の収穫ともいうべきものだった。

(山本智志)



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