12 | 『ノー・ダメージ』アルバム・ジャケットの秘密
1982 -1983



 佐野元春にとって最後のアルバムになるかもしれなかった『No Damage』はソングライター/ミュージシャンとしての崖っぷちで作られたコンピレーション・アルバムだった。

 それはアルバムのフロント・カヴァーにも表現されている。宙空に浮遊する巨岩の下で朝食を食べている白いシャツの男。一秒後にはダメージを受けてしまうかもしれない危機的な状況にも関わらず男は真っ直ぐ前を見ながら穏やかな表情で朝食をとっている。

 佐野自身によれば、これはフランスの詩人ジャック・プレヴェールの詩にインスパイアされたものだという。フロント・カヴァーのその男の周囲にはガスマスクを顔面からはずしかけた男や猛スピードで回転するメリーゴラウンドがコラージュされている。その裏面にはバスタブの中でシャワーノズルを電話の受話器に見立てて笑っている水泳帽の男、都市の路上に置かれたデスクに向かってタイプライターのキーを叩く男、ポケットに両手を突っ込み斜め上を見上げながら通り過ぎる男、そして背後のポスターには革命家チェ・ゲバラの顔……。

 これらのコラージュは佐野がみずからの音楽の中に込めた“意志”を伝えるためのメタファーであり、崖っぷちで踏み止まっていたアーティストが聴き手に向けて発した切実なメッセージだった。


(吉原聖洋)



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