ロックに限ったことではないが、才能というのはある日突然現われるわけではない。あのビートルズにしても、彼らは天才というよりはむしろ、ロックンロールやR&Bなどアメリカの音楽に熱心な、そして高い音楽的理想とアイディアを持ったイギリスの若者たちの集まりだ。ロックの才能はある日気まぐれに天から降りてくるのではなく、連綿としたポップ・ミュージックの歴史や音楽の遺産が新しい才能の登場をうながすのだ。そう考えたほうが自然だろう。
その意味からも、時代や世代を超えたミュージシャン同士の交流は重要だと思うのだが、昨今、そうした交流は昔に比べてもずいぶん少なくなってしまった気がする。そうした現状を佐野元春が憂えていたかどうかはわからないが、彼が主催したロックのイベント「THIS」は、まさにそんなミュージシャンたちの意義深い交流の「場」だった。
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1996年の8月31日と9月1日。東京・赤坂BLITZで開催された「THIS!'96」は、レコード会社やマネージメントのさまざまな思惑が交錯するベネフィット・コンサートや新人売り出しのためのショウケース・ライヴと違って、純粋なミュージシャン・シップや音楽の楽しみに溢れていた。
ここで佐野は、エネルギーに溢れたグルーヴァーズの演奏をバックに5曲を演奏した。「君を連れてゆく」ではヒートウェイヴの山口 洋が、「サンチャイルドは僕の友達」ではグレイト3の片寄明人が加わり、観客を引きつけた。翌9月1日、佐野はザ・ホーボーキング・バンド(このころは頭に“インターナショナル”という言葉がついていた)を率いてステージに立ち、「バニティー・ファクトリー」など5曲を披露した。翌年の「THIS!'97」の出演者は、トライセラトップス、山崎まさよし、Cocco、トーキョーNo.1ソウル・セット、そして、佐野元春とザ・ホーボー・キング・バンドなど。「THIS!'98」には、ドラゴンアッシュやスーパーカー、ピロウズらが出演した。現在、第一線で活躍するアーティストたちが、数年前にこうして一堂に会していたわけだ。先見の明というか、ロックに対する確かな審美眼というか、ともかく佐野がそうした判断力の持ち主であることが、このことからもわかる。
このコンサートには“New Attitude for Japanese Rock”というサブ・タイトルがつけられていたが、そのタイトルに偽りはなかった。世代や音楽性を超えて優れたミュージシャンたちが集まったロック・イベント「THIS」が開催された意義は大きいし、そこに掲げられたスローガンは崇高だ。今後もこうした試みが継続されることを望みたい。
●参考資料
96年THIS記事
97年THISサイト
98年THISサイト