『月と専制君主』作品ノート

◆セルフ・カヴァー・アルバムを制作した意図について

最初は、30周年アニバーサリーの制作物の一環として、軽い気持ちで始めた。やり始めてみると、とても意義深いものを感じて夢中になった。新作を作るのと同じ時間と情熱を注いだ。

◆アルバムのテーマについて

アルバムのテーマは、『「君」の不在について』です。

◆レコーディングで意図したことは?

リアルプレイを大事にすること、アコースティックな楽器を使い、耳にも心にも有機的な音にすること、エアに響く音を大事にして、ライブな音を作ること、あたりが意図としてあった。

◆選曲の規準

選曲の規準は、2010年現在でも、僕にとってリアリティのある曲を選びました。また、ソングライターとしての自分を前面に出せる曲を選びました。初期の曲が含まれていないことに特に意図はない。

◆今回のリズム・セクションについて

ザ・ハートランドとホーボー・キング・バンドのメンバーの混成メンバーでレコーディングできたこと、このことが僕にとってほんとうに大きな喜びだった。今回のレコーディングでは何度か感動的な場面があった。スタジオで、完成した楽曲「君がいなければ」をメンバーと聞いていて、曲が終わると、自然な拍手が起こった。それは、互いが互いの演奏をリスペクトしてのことかもしれないし、年月を経てここまできた自分たちのミュージシャンシップを讃えあうものだったのかもしれない。いずれにしても、僕にとっては、美しく、忘れられない景色となった。

◆アナログ盤のリリースについて

音楽リスナーの側で、ダウンローディング、CD、アナログ、とそれぞれが気に入りの形態を選ぶ自由があっていいと思い、DaisyMusicレーベルとして、アナログ盤のリリースを決めた。

◆ゲストとしてフィーチャリングされたラヴ・サイケデリコついて

ラヴ・サイケデリコは日本では珍しく、フォークロックやアメリカンルーツをコンテンポラリーな解釈でやっている。世代は違うが、僕と共通している。以前、彼らからの呼びかけで、ディランのカバーをTVで一緒に演奏した際、そう思った。以前から何か一緒にやろう、という話が今回、実現した。

◆「ヤングブラッズ」について

バンドが楽しんで演奏している。そこに喜びの感情がこもっている。ぼくはこの演奏を誇りに思っている。ザ・ハートランドとホーボー・キング・バンドの混成メンバーによるライブ・レコーディング。ぼくらはこのように成熟を迎えた。今回このテイクをレコードにすることができて良かったと思っている。

◆「月と専制君主」について

「月と専制君主」の英語タイトルは、「Sidewalk Talk」です。この曲は86年、パリで書いた曲です。友人たちとカルチエ・ラタンあたりで、夜の散歩をしながら思いついた言葉を並べた。「ウオーキング」つながりでいうと、ルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」が思い浮かびます。曲の最後あたりに、例のスキャットをにおわせてみました。たわいもない連想かもしれないですが、あながちはずれてもいないと思うがどうだろう?