同時に注目したいのは、ライブという行為が言葉の持つ“間”
を敏感にオーディエンスに伝えていることだ。即興演奏と絡み合 いながら繰りだされる言葉と息づかいは、まさしく詩を解き放つ
ことに成功している。そうした意味において、これらのトラック は“スポークンワーズ”の本質を知らしめる絶好のモデルと言え
よう。
さて、最後になったが、ここで“スポークンワーズ”の定義に ついて探りたい。そのためには、以下の佐野の発言を読んでいた
だくことが最善の道であろう。
「僕はなぜ詩を書くのか? それは書いた詩によって誰かとコミ ュニケートしたいという気持ちと同時に、詩を書くという行為自
体が僕の感情をコントロールしてくれるからだ。たとえば自分の 中から一篇の詩が生まれる。僕はそれを口に出してみたくなる。
しかし、それだけではない。その朗読に沿うサウンド・トラック を自分で編集してみたくなる。そこにある言葉とメロディー、そ
してグルーヴといったものは、どれを取り外しても成立せず、ひ とつのものに融合している。これが僕の“スポークンワーズ”と
いう表現の理想的な形である。僕はその実験を、この先も続けて いくだろう」
彼の言う「実験」の最新バージョンは、2000年7月に行われ たインターネット・ライブ〈Summer
of 2000〉で披露された。 KYON、そして里村美和のアコースティック演奏をバックにリーデ ィングされたのは新旧の詩作6篇。映像と共にネットを通じてリ
スナーの端末に届けられた言葉は、従来のメディアでは到達でき なかった“個対個”の関係性を深めることに成功した。
そして佐野のビジョンはさらに先を向いている。彼は本作のリ リースを機に、まもなく“スポークンワーズ”専門のレーベルを
始動させようとしているという。詳しいプランについては近い将 来アナウンスされる予定だが、ネット・コミュニケーションを最
大限に利用した内外のアーティストとの交流を視野に入れた活動 になるはずだ。一方通行の“詩の朗読”ではなく、相互作用の起
こる言葉の交歓へ――『ELECTRIC GARDEN』に始まった15年間の 意欲的な試みは未だ尽きることがないようである。
プロフィール/増渕俊之(ますぶちとしゆき)

11965年生。マガジン「SWITCH」編集部、また、佐野元春編集責任マガジン「THIS」編集者を経て、現在、フリーランスの編集プロデューサーとして活動。インタビュアー/コラムニストとしての豊富なキャリアを生かし、文学、音楽、ユース・カルチャー分野全般にわたるジャーナルな活動を続けている。