神奈川県横浜。桜木町の駅から徒歩10分くらい、もみじ坂を上がった途中に小さなホールがある。横浜教育会館。1980年10月6日。佐野がワンマンでの初のコンサートを開いたホールだ。
座席指定はなく、来場者の順に整理券が配られた。集まったファンはほとんどが新宿ルイードやテレビ神奈川「ファイティング80s」で佐野のライブを見たティーン・エイジャーたちだった。
動員も決して多くなく、座席の半分が埋まるくらいだった。しかし、未来のスターの栄えある門出を目撃する幸運に恵まれた彼女たちの表情は明るかった。
バンドはハートランドの前身にあたり、固定のメンバーではなかった。まだ持ち歌が少なかったこともあって、チャックベリーの「ロックンロール・ミュージック」などカバー曲を数曲演奏した。
この後、佐野とハートランドは、全国ツアー「ウエルカム・トゥ・ザ・ハートランド・ツアー」「ロックンロール・ナイト・ツアー」で急激にファンを増やし、全国どの会場もライブを見られないファンで溢れかえる状況を迎える。新しい時代は新しいタイプのロック・パフォーマーを歓迎した。
後に佐野は語る。「横浜教育会館での初のワンマン・コンサートは今でもはっきりと覚えている。あのとき僕を発見してくれたファンがいなかったら今の僕はいない。すべてがあそこから始まったんだ」
うれしそうにジャンプする佐野。初めてのホール・コンサートを盛りあげるために紙吹雪やホイッスルで声援を送るファンたち。無邪気な幸福に包まれた一瞬がそこにあった。
