1981年12月3日、渋谷公会堂で行なわれた大滝詠一のコンサート。オーディエンスが自身のヘッドフォンを持参し、小型のFMラジオを取り付けた座席でステージの上の演奏をヘッドフォンを通して聴く、という風変わりな形態のコンサートだった。
開演前にはヘッドフォンのサウンドチェックがあり、ステージの下手から上手へと機関車が通過した。あらゆるオーディエンスが客席でヘッドフォンを装着し、周囲のノイズに妨害されない状態で行なわれたコンサート。通常のコンサートに慣れた者の眼には異様な雰囲気のものだったが、従来のライヴ・パフォーマンスという表現形態を選択することを拒否し、あくまでもレコーディング・アーティストであり続けようとする大滝詠一にはふさわしい形態のコンサートだったと言えるだろう。
ただし『ナイアガラ・トライアングル VOL.2』の一員として杉真理と共に参加した佐野元春だけは、そのコンサートの枠組から逸脱していた。
若き元春のライヴ・パフォーマーとしての荒々しい自我をヘッドフォンの中に閉じ込めておくことはできない。ひとりで「サムデイ」を歌い、大滝、杉と共に「A面で恋をして」を歌った佐野元春の存在そのものがその場ではノイズだった。ロックンロールという名の強烈なノイズがそこには在った。いや。どちらが正しいとかいう話ではなく。