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Text : 長谷川博一
外国人ミュージシャンとのつきあいが多く、海外生活の経験もある人だけに、コラボレーションの機会は多数。
ドラムスのオマー・ハキム(「ニューエイジ」)、プロデューサーのコリン・フェアリー(アルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』『TimeOut!』)、オノ・ヨーコとショーン・レノンがコーラス参加した楽曲(「エイジアン・フラワーズ」)、アルバム『The Barn』ではブルース・ハープでジョン・セバスチャン、そして同アルバムと大阪公演にはプロデューサーのジョン・サイモン、キーボードのガース・ハドソンというロック界のリビング・レジェンドが出演。「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」のレコーディングにはピート・タウンゼントが愛用していたレスポールのギターが使用されるという、思いがけないゲスト参加もあったりする(彼の魂を音の中に灼きつけたいという思いなのだろう)。
枚挙にいとまない経験の中で個人的にベストと思えるのは、アルバム『The Circle』(93年)にゲスト出演したUKのキーボード奏者ジョージ・フェイムとの共演だ。
軽快なハモンド・オルガンのプレイでかつてロンドンのブルー・アイド・ソウルのブームを作り、今ではヴァン・モリソンのステージには欠かせない影の立役者。「君を連れてゆく」という曲のイントロのハモンドが素晴らしい。何も大袈裟じゃない。“小袈裟”と呼んでもいい。たった5つの単音のフレーズ。それだけで、この曲の情感のすべてを代表するかのよう。文章を書くにしろ曲を作るにしろ、経験が増すにつれ手にいれるのは無駄なものを省いていくという筆致だと思う。その“省筆”の極みがこのイントロではないか。
短いセッション時間のあいだにメロディを編み出したジョージも立派だし、引き出した佐野も立派。この曲、初恋チックな曲ではないし失恋の歌でも得恋の歌でもない。かねてから親しくしていた相手と“愛をやりなおす〜”と歌う成熟したラブソングである。
イントロの力と主題の冴が相まって、この作品は90年代の日本のロックのクオリティ部門を代表するマスターピースになった、と私見も添えたい。
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