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Text : 岩本晃市郎
84年4月、滞在先のニューヨークから約1年振りに帰国した佐野元春は、当時まだ生まれたばかりのヒップホップ・カルチャーを詰め込んだアルバム『VISITORS』を発表し、日本のミュージック・シーンに強烈なフックを見舞わせる。
誰もが想像し得なかったヒップホップと日本語の融合は、緩やかな進化を見せていた国内のポップ・ミュージック・ストリームを、一瞬のうちに嵐の後の激流へと変化させた。
そしてその激流の源泉をライヴ・パフォーマンスで見せたのが、84年から85年にかけて全国79ケ所で行なわれ、延べ116,711人を動員した「ヴィジターズ・ツアー」だった。
佐野元春はこのツアーに先駆けて84年10月、赤坂にあるラフォーレ・ミュージアムでプレス向けのコンヴェンションを行なっている。会場はアルバム『VISITORS』の噂を聞き付けたマスコミ関係者などでごった返し、久々の佐野元春のライヴ・パフォーマンスをいち早く見ることができる絶好の機会とあって、招待状にはプレミアが付いた。
その夜の佐野元春とザ・ハートランドのパフォーマンスは極めてクールなものだった。しかしラップという手法を混在させた歌は、それまでの彼のスピード感覚を新たな次元へと導き、そして誰も追従することを許さない孤高のアーティスト佐野元春の比類なきクリエイティヴィティを十二分に見せつけてくれた。
はじめて生で聴く「コンプリケーション・シェイクダウン」や「トゥナイト」は、それまで聴いてきたどんなものとも違うポップ・ミュージックのテイストを漂わせた楽曲で、それを歌う佐野元春もまた、それまで見てきたどんなアーティストともちがう輝きを放っていた。
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